見出し画像

キレイごとだけでは世の中回らない!「衛生」に見る人間の本質

島田薫です。

9日に東京・赤坂ACTシアターで開幕した古田新太さんと尾上右近さんのW主演舞台「衛生」を観劇してきました。

この作品の公式サイトによる紹介は、「排泄物を肥料として扱う業者一家の悪行三昧を、ポップかつグロテスクに、それでもどこかあっけらかんと、音楽に乗せて描いていく異色ミュージカル」。

この一文だけでもかなり“攻めた内容”であることはお分かりになるはず。評価の分かれる作品かもしれませんが、主に、題材を受け入れるかどうかという部分が大きいのではないかと思います。

というのも、開始数分で“うんこ”という言葉が何回出てきたでしょうか。感覚としては連呼されている気分でした。ただ、それは誰もが生きている限り避けられない生理現象。なにより、下水道が発達するまで、排泄物処理は1つの大切な仕事でした。

本作では、水洗トイレが普及する少し前の昭和33年、利益を出すためなら何でもやる経営方針のし尿の汲み取り業者「諸星衛生」の諸星良夫社長と息子・大を中心とした人間模様を描きます。

物語が始まってしばらくは、排泄物の利権争いが続くのですが、その中に社会の縮図も見えてきます。街の住人たちを脅し、排泄物を処理する契約を結び、その利益で居酒屋やパチンコ店を作り、住民からお金を巻き上げていく諸星親子。そこに雇用も生まれ、気がついた時には、住民たちは諸星親子を抜きに生活が成り立たなくなっているのです。

人々は諸星親子の会社で働き、諸星親子の店で遊び、そして政治家はそれを利用してお金が循環されていく…。殺人も厭(いと)わないほどハードな展開ですが、客観的には“ありえる話”に見えてきます。


キャストも魅力的で個性豊か。諸星社長を古田さん、息子の大を歌舞伎俳優の右近さんが演じ、親子で悪の極みを見せつけます。

画像3

繰り返しますが、劇中は排泄物と下ネタの連発なのに、古田さんのドスの利いた声、据(す)わった目がどこかカッコよく、「実際にこんな人がいたんだろうな~」とさえ感じます。

右近さんは声が通るし、滑舌もいい。悪役なのに“きちんと感”は残っていて、逆に2代目の坊ちゃんぽさを醸し出しています。そして歌もうまい。

そう、この作品はミュージカル。“歌に聴きほれる”というのはミュージカルを楽しむ1つの要素ですが、今回は終わるまでそのことをほぼ意識しませんでした。終わって初めて「これ、ミュージカルだった!」と思ったほど。「いきものがかり」の水野良樹さんが書き下ろした『諸星親子のテーマ』のフレーズ「♪金払え 金払え」は、今も頭から離れません。

画像1


個性豊かな強烈なキャラクターは諸星親子以外にも。

諸星親子のライバル業者・瀬田好恵役は、ともさかりえさん。イヤミなセリフで聞かせます。

地元の有力政治家・長沼ハゼ一に扮するのは六角精児さん。本格的なミュージカルは本作が2作目となります。

登場人物の中では最も“普通”に近い、印象が薄めの代田禎吉役を「NON STYLE」石田明さん。彼ならではの持ち味を活かして好演しています。

そして、排泄物や下ネタから一番遠くにいそうな元宝塚歌劇団トップ娘役・咲妃みゆさんは、花室麻子と諸星小子の2役にファンを失う覚悟(!)で臨んでいます。

とにかくそれぞれに見せ場があり、全員スピンオフが作れそうです。

諸星親子をはじめ、彼らのストレートな欲望は時に清々しささえ感じます。少なくともこの舞台の登場人物は、誰1人として自分のことを悪いとは思っていない。“善人不在”と謳(うた)っている同作ですが、きっと、どんな人が観ても登場人物の誰かに共感してしまう…そんな人間の業が詰まった作品だと思いました。

画像2


※東京公演は25日まで。大阪、福岡公演もあり。

※写真2~4枚目、撮影:引地信彦

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?