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これからの国際秩序と台湾有事

ひとりの人間として心を痛めるようなウクライナ国内の惨劇、露のハイブリッド戦や軍事侵攻プランがどうの、それからドイツの安全保障方針がどう変化した、米国はこのように発表している、といった現象報道が多いわけですが、我々は日本国に住む日本人である、という極めて自己中心的で未来志向な見方をすれば、今後の「国際秩序」とそれにともなう「台湾有事」の行方について…、が最も緊張感を持った分析対象であることは間違いありません。

個人的には今まさに発生してしまっている戦争に反対であって、平和を心底から願う立場ではあるものの、将来発生する潜在的反平和的予兆を分析し、それに対応するプランを提示しておくこともまた、いま僕ができる平和貢献なんだろう、という勝手な信念のもとで書き連ねておきます。

今回のウクライナ危機(紛争・戦争)では、大胆に単純化すれば露 VS. NATOという構図が大きな背景にありました。そこに米中の超大国が関わっているという状況です。とはいっても、世界の安全保障バランスに関して主役プレーヤーである米中の超大国は、今回の完全なる当事者というものではありません。

覇権を競う両超大国=2匹のジャイアンの主戦場は、いまもなおインド太平洋地域であります。露がいかなるムーブをしようとも、暫くの間は日本としては「ラスボスはチャイナ」という認識は間違いない状況です。

ですから我々日本人にとっては、今回のウクライナ危機で国際秩序がどのように変わっていくのか、 「チャイナファクター」は今後の国際秩序にどのように影響を与えるのか、 今後の国際秩序のもとで「台湾有事」の蓋然性はどうなっていくのか、 を今から考えておくことが重要です。戦略的な選択肢の幅を持てるようになります。脳トレのレベルでも良いので多くの日本人が考え始めることが大事なんですよね。

今般のウクライナ危機をうけた、両岸問題(台湾周辺事態)のエスカレーション可能性

チャイナ、というよりも、ここでは北京中央にとって、まったく異なった未来となる大枠のシナリオ分岐が2つあります。

※ちなみに「北京中央」は中国共産党組織(の上意下達・民主集中制による意思決定上層部)を表し、「中華人民共和国」は国家を表します。党が国を指導・統治・管轄・しているという絶対構造から、北京中央の意思が国家よりも優先されます。党益と国益が一致しない矛盾問題がある場合、絶対的に党益が優先されるところが民主国家とは異なる点です。僕が使う「チャイナ」とはこれら組織構造をすべて包んだマイルドで広範囲の概念を示します。党によるホールディングカンパニー構造に興味がある場合には、僕の本を参照してください。

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話を続けます。ウクライナ危機を経ても北京中央が望むのは、

A、現在の国連中心の国際秩序が維持されるシナリオ

です。「チャイナは国際秩序にチャレンジする立場だっ!」という末端現象に重点をおいた先進諸国側(日本も含む)の解釈意見が少なくありませんが、メタ概念では、彼ら北京中央こそ今となっては国連中心の国際秩序を最も維持したい勢力です。我々先進国として「チャイナを対峙する相手とみなす」政治ポジショントークと、客観的なチャイナ行動原理への理解は別であることを混同してはならないでしょう。

彼らが鬼ではないとわかっていながら「鬼である!」と政治的に糾弾するのであれば問題はないのですが、国家戦略を内々に立案する場合には、彼らが鬼なのか人間なのかを理解しておくことは必須です。戦略には高度な北京中央エミュレーションが必要です。

チャイナ(北京中央)が1971年に「中国の代表的地位」を奪取したアルバニア決議(北京中央は「両ア決議」と称する)からちょうど50年間が経過しています。ウクライナ危機などで国連体制という枠組みを本格的に揺るがすほど国際政治調整メカニズムが流動化すれば、チャイナは50年間もの期間に人やカネなど様々なリソースを莫大に投資し続けた結果ストックされた「国連社会資本」を失います。ある意味では国連機構のもとで、チャイナは外交的に肥えてきました。当然今後も維持したい資本(資産)です。

なぜ台北よりも北京中央が正統である「1つの中国」が国際社会に認められているのか。それは国連(憲章)があるからです。チャイナの領土が現在のように確定され、チャイナの国内問題に対し国際社会が批判することが内政干渉になってしまうというのも、内政不干渉を是とする国連を中心とした国際秩序があるからです。

だから、北京中央は紛争の長期化や国際社会秩序の破壊は望みません。そして、現在の国際秩序が維持さえされれば、産業経済力というパワーによって自然に肥大化し、自然に世界覇権を「実質的に」握れると判断しています。北京中央は国連というメカニズムが維持されることによって、ハレーションを生みやすいイデオロギーの輸出も不要で、最も低コストで、合法的に世界覇権を手に入れられると考えているわけです。

こうした前提のもとで、今回のウクライナ危機を見ます。経済制裁受ける露に対し、中立を維持するチャイナは中露間通商で短中期で肥えます。チャイナに利得があります。ただし現物貿易と商圏拡大までで、金融インフラを露に提供することは消極的です。(→理由はこちらのnote記事を参照してください。)

北京中央は、台北に対し2049年まで「闘いません、勝つまでは」戦略を継続しています(興味がある方は、僕の『紅い方程式』に詳しくかいておきました。)。彼らは米中の国力成長スピードの相対的差異を確信しています。そして中長期的に大陸側(中華人民共和国側)の国力が圧倒的に米国を凌駕した時点で台湾執政に関与するという流れを組んでいます。過激なアクションを起こさずに待てば待つほど、北京中央は台湾の執政関与権限に低コストで近づけるという考えです。ウクライナ危機が短期で収束し国連中心の秩序が維持されるケースでは、チャイナは経済利得あった上に、従前通り両岸問題をエスカレーションさせる動機は低いことになります。

続いてのシナリオ。こちらは北京中央が最も嫌い、警戒するシナリオです。
B、国連中心の国際秩序からG7等の新秩序にシフトするシナリオ

ウクライナ危機の長期化によって、国連の秩序維持機能が脆弱化するという可能性です。G7各国が連携して国際社会の新秩序構築へ動く大きな転換を想定します。北京中央が50年間投じた「国連社会資本」が埋没コスト化します。将来への「1つの中国」原則流動化します。北京中央にとって、台湾執政を待てば自然に得られる見込みが低減することになります。中華人民共和国の憲法にも記される台湾統治への安定的道筋が崩され、末端党員や大衆人民への北京中央の無謬性が説明できなくなります。普通選挙がないからこそ、党上層部の無謬性が崩されると党統治体制の根幹が揺らぐことになります。北京中央は外交内政あらゆる面で正統性にイエローカードとなります。

これは中共が最も忌避する事態です。そこで、北京中央は、党統治正統性と無謬性の低下回避ロジックを起動しますので、物理的な台湾執政(軍事侵攻)を画策する蓋然性が高まります。チャイナの絶対的で圧倒的な粗暴化に日本は対処する必要となるでしょう。両岸問題のエスカレーションです。

日本が直面する選択肢

北京中央にとっては、莫大な埋没コストと将来発生コストを伴うBシナリオは避けたい、ということになります。

ただし、我々日本はそれを望むことも選択肢としてはアリです。というよりも、新国際秩序メカニズムなんて莫大なセットアップコストがかかり、軍事的にリスキーなことではありますので、実際にシナリオBに突き進むことを決定するというより政治選択肢としてシナリオBが存在していることが、チャイナ牽制カードになるという意味で選択肢としてアリです。

仮にウクライナ危機がBシナリオに発展するほど長期化ないしは、G7各国がこれを新秩序構築の契機にすることになれば、前述のように台湾有事の蓋然性は上がります。台湾有事は、G7の構成国であって、国連非常任理事国で、大陸台湾と近い位置にある日本とって、他の国と比べ物にならないほどに大きな影響となります。

日本としてはシナリオAを継続させて北京中央が産業経済軍事マネーあらゆる面で肥大化するジャイアニズムを受け入れるネガティブ要素をとるのか、 または冒険的にBを選択して台湾有事の蓋然性高くなる物理的ネガティブ要素をとって長期将来リスクを低減させるかという選択肢です。Bを推進すると一旦決めるのであれば、イニシアチブを発揮しておいしい(日本にとって都合の良い)ルール形成になることを目指すべきでしょう。

日本(+米国)以外のG7各国にとっては、日本(+米国)に比べて「台湾有事」の影響は限定的かもしれませんので、国連中心の秩序からG7主体の新秩序に移行するハードルは相対的に低いものです。だからその移行に対して、日本が意思決定を主張しなければ、欧州先進諸国の思惑に流されてしまい、結局被害を被るのは日本でした、なんていう最悪のことになりかねません。

ウクライナ危機が収束しないことを想定して(そもそも今のところ長期化するとはあまり考えられないですが)、上記のいずれの選択肢でいくべきなのかは日本の政治層が事前議論しておくべきことなんですよね。

国連中心の国際秩序維持という「チャイナの自然な肥大化」脅威を選択するべきか、
G7等を中心とした国際新秩序形成という「チャイナの驚異的な粗暴化(両岸問題のエスカレーション)」脅威を選択すべきか。

すぐに選択決定をする必要はありませんし、ウクライナ危機を奇貨として…というには人道的に気がひけるものの、今こそ日本のインテリジェンス機能の拡充の現実化を徹底的に議論し(僕の「情報安全庁」構想的なもの)、そうした人材・予算・組織・新しい法令をベースに、「チャイナの自然な肥大化」脅威 or 「チャイナの驚異的な粗暴化」脅威で行くべきなのか政治議論を情熱的に詰められるようになりたいものです。

いえ、なりたいものです…なんていう評論家的な甘っちょろいことでもいけないと思いますので、「知中派」を自称する僕も政治家の皆さんに具体的に提言できるように動いていきます。そん時は、なにか機会あれば100円くらいカンパしてください。頼んます。

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