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露に対するSWIFT除外経済制裁

ウクライナ危機をうけて、先進各国を中心に対露経済制裁が検討されています。その中でSWIFT(国際銀行間通信協会)のネットワークから除外するというニュースが話題になっていました。

核開発疑惑によって2012年にイランにも課された制裁ですが、そもそも国際金融ネットワークインフラであるSWIFTからの排除制裁とは?その意義は?に関しては別の場所で検索などしてみてください。↓例

僕のnoteでは、SWIFTについてなんとなく理解している方に向けて、次の話題に移ります。じゃぁ、SWIFT制裁があった国はチャイナに頼るのでは?というテーマです。

僕は去年「デジタル人民元」という本をだしました。新書です。色々調べる範囲が広くて書き進めるのに疲れた一冊です。んで、デジタル人民元について調査していると、SWIFTに代わるチャイナ謹製国際決算システムCIPS(中華版SWIFT=Cross-border Interbank Payment System)にも目がいきます。書籍化した時にSWIFTとCIPSに絡んだ露の話題に触れました。

デジタル人民元とCIPSはまったく別物なので混同しないようにご注意ください。こちらのnote記事ではCIPSについて書いています。

まず中露関係のさらっとしたおさらい。ソ連時代に「アニキのソ連、舎弟のチャイナ」という共産イデオロギーラブラブ関係で打算的友好関係をつくった後には、関係悪化・中ソ対立の冬の時代を迎えた両者。1971年に国連アルバニア決議(北京中央は「両ア決議」と読んでいます。アルバニアと関係がこじれたから、一カ国をアゲるのが嫌なんでしょう。)で中華民国(台湾)に替えて国連常任理事国の座を中華人民共和国(大陸・北京)がとりました。その後改革開放路線に乗って、チャイナの経済成長は皆さんご存知のとおりです。現在では、GDPで約9倍弱の差がついているので、横並びでいがみ合うパワーの均衡とは異なった動機がそれぞれに働きます。露側はチャイナの経済圏に飲み込まれるのは脅威でしょう。一方、チャイナはキタを「餌付けされた狂犬」、露を「餌付けされた大型狂犬」とみなすような気配があります。いつでもチャイナに噛みつく用意があるものの、狂犬を餌付けしているのは自分という感覚です。決して相思相愛なわけではありません。

孤立した露はチャイナにとって「使える」存在であります。2020年12月2日に実施された中露双方の総理定期会談(リカチャン総理〈李克強〉とミシュスティン首相)では、大豆貿易の進展、2021年の第七回中露博覧会(露で開催)、チャイナ企業の露内経済特区での合作、G20・APEC・上海協力機
構(SCO)・BRICS五カ国といった国際フレームを利用した国際協調、保護主義への共同反対姿勢(米国を念頭に置いたもの)を提示。露はチャイナの提唱する「データセキュリティ・グローバルイニシアチブ」(米国の「クリーンネットワーク」へのカウンター構想)を支持、などなど様々な合作プロジェクトを抱えています。

今般のウクライナ危機前から、露は「米国外交圧力、USD、SWIFT」を連動させた制裁へは前々から対処準備していました。チャイナと組んで中露間の米ドル(USD)を介さない直接現地通過決済も進めていました。2013年当時には中露貿易決済の僅か2%から3%が現地通貨決済(ロシアルーブルかチャイナ人民元)だったのですが、2020年の約一千億米ドル相当の貿易決済においては、実に25%が現地通貨で決済されるようになっていることです(経済誌『21世紀経済報道』)。
ただし、それは米ドル決済を必要としないほどのレベルではありません。そしてCIPSの国際インフラとしての機能は限定的です。

なにせチャイナ自身がCIPSを本格稼働させるのは時期尚早と考えていて、露から要請あっても表だって旗色を鮮明にして激しく動きたくはない案件です。CIPSが国際金融インフラとして機能しているわけじゃぁありません。なによりCIPSは10年にも渡って研究と実装をしてきて、ゆるやかに立ち上げて、SWIFTと合弁会社を作っているほど表面上は「(SWIFTと)友好的」だから。

ある意味では、先進諸国から敵視されないように日陰を選んで発展させてきたのがCIPSです。宣伝大好きのチャイナがCIPSについては小さなリリースにとどめてきました(プロパガンダ分析は、宣伝される内容もさることながら、宣伝されない内容を読み取ることが重要です。)。実は日陰で世界各地の商業銀行と組んで一応全世界各地カバーにまでなっています。

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※↑CIPS、SWIFT、デジタル人民元、暗号資産についてのチャイナ年表。5ページにわたる表は、チャイナ当局の意図を解釈するために重要でしたので、編集者さんに無理をお願いしてのっけてもらいました。

数字でみますと、増減を繰り返していますが、書籍を書いた2021年2月時点でCIPS参加機構は1159組織(うち直接参加銀行・機構は43組織。発足以来、参加機構は追加だけでなく抹消もあり)。間接参加機構のアジア867組織(うち大陸内が522組織)、欧州147組織、アフリカ39組織、北アメリカ26組織、オセアニア20組織、ラテンアメリカ17組織が、99の国と地域をカバーしています。CIPSの業務範囲としては、およそ170の国と地域をカバーするとされています。

露制裁の結果、露には確かにSWIFTに代わってCIPSやデジタル人民元という抜け穴があると言えばあるわけだけど、チャイナ側の政治意思は、これを積極活用する機会にしようということはありません。

それよりも、中露間の現物貿易取引量を増やすほうをチャイナは好むはずです。チャイナ側は国際社会から金融システムで露を支援したことを批判されないほうが都合よいわけです。露の火の粉を自分がかぶりたくはない。

「平和的」に現物貿易をやって露との商圏融合を図り、2国間通貨決済を進め、露のチャイナ経済圏化をさらに強める。今回はコレくらいがちょうど良い、と考えています。

あくまでもチャイナは、国連中心の国際秩序を世界で最も維持したい(どうしてチャイナ、というよりも中国共産党に国連プラットフォームを強力に維持したい動機が働いているのかは、別のnote記事にしておきます。)。露に対して露骨すぎる金融インフラ支援のスタンスはとらないでしょう。(おしまい)

「デジタル人民元」本のなかでは、CIPSについてのより詳しい話、それからチャイナの露や周辺国との商圏、一帯一路鉄道網、パイプライン網などについても触れています。とりあえず、情報をたくさんつめこみました。

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