見出し画像

淫らで賢明で美しいもの。映画「哀れなるものたち」鑑賞レポート

第81回ゴールデングローブ作品賞受賞の「哀れなるものたち」を観てきました。

公開前からとても楽しみにしていたのですが、ようやく!!
映画館で見られて本当によかったです…!

前評判として胎児の脳を移植された女性の話であること、フェミニズム的解釈のできる映画であることを聞いていたので、偏見でおそらく後味悪い系なのだと思っていましたが(そういった映画も好みです)、実際にはとてもすっきりとまとまったラストで驚きました。

賛否両論あるようなのですが、個人的にはスタンディングオベーションしたいほどの大好きな映画でした。以下、ネタバレも含めた感想を書いていきたいと思います。

ベラという生き方

いわゆるマッドサイエンティストのゴッドウィンに胎児の脳を移植されたベラは、彼の屋敷に閉じ込められていて自由に外に出ることを禁じられていました。
しかし、弁護士のダンカンの誘惑に乗っかる形で屋敷から逃げ出し、広い世界へ旅に出た彼女が、世の中の酸いも甘いも経験しながら自立した女性の強さを獲得していく、というのが本作の大筋です。

たしかにこれだけをみると王道フェミニズム映画という感じがしますが、個人的には、この抑圧からの解放だけが本作の主題ではないように感じました。
なぜなら、ベラははじめから自分の意思を強く貫いているからです。

ゴッドウィンに外出を禁じられたときは男二人でも持て余すほど大暴れして抗議していますし、マッキャンドレスとの婚姻の際もまんまとゴッドウィンの策略にはまっているかと思いきや、結婚の前に冒険したいと堂々主張し、勝手に駆け落ちしています。

そんなベラの強さが、胎児の知能から急速な成長を遂げた所以なのだと思います。はじめから強い意志を持ったベラがとても美しく、爽快でした。

彼女が娼婦という仕事を選んだ点を「社会的な搾取の正当化じゃないか」とする声も見かけましたが、個人的にはそうは思いません。

本作において彼女が身体を売ることを選択した意味は、「対価」を知るということだったのではないでしょうか。
それは、性を商品にしているというだけで他の仕事と変わらないと思います。問題は「差し出すもの」を自分で選び取れる自由があるか否か、ということだと思います。

身体、お金、心、時間……。現代でも、対価を得るには必ず自分の身から何かを差し出さなければなりません。どんなに素晴らしい仕事でも、少なからず、自分のためにある時間や思考を、お金ややりがいと引き換えに捧げています。

ベラの選択を「社会的な搾取の正当化」というのは、誇りを持って仕事をしているセクシー女優やグラビアアイドルの方々を「はしたない」と言って貶めるのと同じような暴力性を感じます。

実際、娼館にやってきた当初は「女性にも選ぶ権利を」と主張した彼女でしたが、最終的には一方的に身体を売る(性を搾取される)ことについてのネガティブをしっかり理解した上で、対価としての報酬を得ることを選びとっています。
つい数ヶ月前まで幼児同然だった彼女が、自身の持っている能力を最大限に活かせる場として選んだ、立派な職業だったのだと思います。

彼女は最後まで娼婦であることを恥じたりしません。
そうした彼女の潔さがあるからこそ、私は激しい性交渉の場面にもそれほど不快を感じることはありませんでした。ベラと客の交わりには暴力性が存在せず、むしろ誠実な対話のように感じられたからです。

「男性」と対等な「女性」を描くのではなく、はじめから終わりまで、女性として生まれた一人の人間としての強さ、美しさをくっきり描いているのが清々しく、魅力的な映画だと感じました。

「現実主義が人生を救う」

最後に、本作はなにより台詞が素晴らしかったです。
旅客船で出会うハリーがベラを諭して言う言葉は格別でした。

「宗教や社会主義や資本主義の嘘を信じてはならない」
「希望はなくても現実主義が人生を救う」

(うろ覚えなので、言い回しは全く違う気がしますがニュアンスで……)

彼の言う「嘘」というのは物事を偏った視点で見てしまうことですね。
美しいものしか知らない無邪気なベラに、ハリーは現実の残酷さを突きつけます。でも、そこに意地悪な感情はなく、彼女がきっといつか遭遇する現実を先に示してくれたんですね。

「現実主義が人生を救う」って少し冷たい言葉のように思えますが、ここのハリーの台詞にはとても強くてやさしいものが込められていた気がします。

映像がとにかく美しい……

内容もさることながら、映像や音楽をはじめとした演出がいちいち素晴らしくて、気が重くなる場面や目を背けたくなる場面も多かったはずなのですが、最後まで強く心を惹き込まれてしまいました。

ベラの衣装がとても美しいので、エマ・ストーンのビジュアルだけでも観る価値があるように思います。

まとめ

この作品、英題は「POOR TIHNGS」なんですね。「PEOPLE」ではない、つまり、「哀れなるものたち」とは人間に限らないということです。

確かに、マッドサイエンティストに身体をつぎはぎされた動物たちが数多く出てきました。最後はヤギ人間になりますしね……。人間・動物ではなく、動物の中の人間という種であって、そのなかで私たちはどうやって人間たるか、みたいなことをあらためて問いかけてくれる作品だったと思います。

個人的には、今年いちばん観てよかった映画です。映画館に足を運んで本当によかった……!できれば映画館でもう一度観たいと思います。まだ観れていない方はぜひ!

ファンタジックな映画が好きな方、マッドサイエンティストや脳移植などの倫理を問う作品が好きな方、女性の生き方に興味がある方、ただきれいな映像・衣装・俳優陣が観たいという方、スカッとした映画が映画が観たい方、いろんな方におすすめしたい映画でした。


この記事が参加している募集

映画が好き

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?