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富士フイルムが提案する2つの「撮影スタイル」

これはあくまでも個人の見方であり、ゼロからカメラシステムを揃え直すなら富士フイルムと思っている偏愛からくる見方であることをお断りしておいて、この秋に発売される2つのカメラと、そこから垣間見れる富士フイルムが考える「人とカメラ、もしくは写真との関係性」について書いていきたいと思います。

2000年ごろの富士フイルムはフィルムカメラとの差別化のために縦型のデジカメを出したりしていた時代もありましたが、カメラがデジタルに移行し、さらにスマホによってその多くが満たされようとしている現在では、むしろ「フィルムメーカー」としてブランドを最大限に活かした方向に転換してきています。

その方向性の先にカメラとは何か、写真を撮ることの意味を考えさせることで、デジタルかフィルムかという技術的なものを超越した、さらに強い「写真企業」を目指しているように見えます。

写真業界では、カメラマンと写真家は違うものと考えており、写真展をおこなう人は「写真家」と呼ぶ習慣があります。それと同じようにカメラメーカーと写真企業は別のものになっていくのかもしれません。

いまカメラメーカーの中で写真企業に一番近い場所にいるのが富士フイルムであり、私が憧れを抱いているところなのです。


タッチ操作で楽しめるX-A7

スマートフォンとデジカメの違いの一つして、十字キーとコントロールダイヤル、レリーズボタンの存在があげられます。カメラを持つことで自然に指で操作できる場所に配置されており、一つの撮影スタイルを完成させています。

それに対してスマートフォンでは、画面全体にモニタが配置されているため必然的にタッチ操作が中心となります。

当初スマートフォンが出てきたときに、デジカメメーカーの中には安心していたところがあったと思います。それはズームレバーもレリーズボタンもないため、カメラとしてはオート中心でメモ写真を撮るだけのものになると考えられたからです。

さまざまな操作を必要とする作画では、十字キーやダイヤルをもったデジカメが有利と考えていましたが、実際にはスマホのタッチ操作によるダイレクトな操作感がよりユーザーの作画意識にマッチしていました。

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デジタルエフェクトやスタンプを作画と呼ぶかどうかはここでは論じませんが、SNSでの価値を高めるために「盛り」で注目を集める行為は現在の自己表現において重要なこととなり、結果的にスマホアプリの方が進化していくことになりました。

今回、X-A7はそのスマホの操作性を大胆に取り入れ、「変えたいものを直接触る」というUIを入れてきました。もちろんまだ中途半端だったり、不十分なことはあると思いますが、この撮影スタイルの方向転換こそ重要なポイントです。


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今回の目玉UIはフィルムシミュレーションを「比較」できるようになったことです。製品のWebページではおなじみとなっているビフォーアフターのセパレートバーの移動による比較機能がカメラ内でできるようになっています。

フィルム時代から撮影している年配の人にとってはフィルム名称だけでどのようなイメージになるのか分かる人もいますが、多くの人にとってフィルムシミュレーションは効果の違いが微妙で分かりにくいものでした。

フィルムの切り替え操作だけで違いを見せるのではなく、わざわざ指先の動きによって迷いながら比較させることで、選ぶことを楽しむのではなく迷うことを楽しむようにしていると思います。

これについては実際に自分で使ってみないと分かりませんが、楽しみな機能の一つになります。


撮影をシンプルにするX-Pro3

X-Pro3の発表がX Summit SHIBUYA 2019の中でおこなわれました。


今回の発表の中でもっとも大きなトピックスは「背面モニタを隠した」ことです。性能が上がったことや、外装がチタンになったこと、新しいフィルムシミュレーションが追加されたことよりも大きな衝撃となりました。

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現在のカメラスタイルには、背面のモニタを基本にして、ファインダーがレンズ軸に配置されている一眼スタイルと、左端に配置されているレンジファインダースタイル、そしてファインダーを持たないコンパクトカメラスタイルがあります。

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カメラの技術がデジタルに置き換わり、ライブビュー表示、ポストビュー表示、再生表示と撮影のプロセスの中に3つも撮影画像を表示する手段が実装され、その結果として写真を確認するまでの時間が大幅に短縮しました。

撮影結果が確認できるようになったことで、ユーザーは様々なリスクのある表現にも挑戦できるようになり表現の自由度が大きく広がりました。

さらに背面モニタやEVF、スマホ連携によってファインダーの種類が増え、撮影アングルの自由度が広がることになりました。

このデジタル化による2つの自由度によって撮影の選択肢が増え、結果として撮影中におこなうことが増えてしまいました。

X-Pro3では背面モニタを隠してしまうことで、撮影する行為をもっとシンプルでストイックなものにしようとしています。渋谷での発表では「PURE PHOTOGRAPHY」という言葉を使っていました。

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撮影前に状況を確認し、じっくりと作品のイメージを作り上げ設定をおこない、撮影中は被写体と向き合いシャッターを切るというシンプルな行為に撮影を戻そうとしています。

「スロー、スロー、クイック」をいう撮影フローです。

このことによって撮影中におこなっていた表現に対する思考や撮影結果のイメージを事前にしっかりとおこなっておくことができ、むしろ表現に対してその場しのぎではなく本気で取り組む姿勢につながると考えているようです。

ユーザーに対して、絞り値を見れば背景のボケ具合がイメージでき、シャッター速を見れば被写体のブレがイメージできる。さらにフィルム名をみれば仕上がりのイメージがきちんとできることを求めていると言えます。

脳の中のイメージとカメラが一体となった感覚こそがX-Pro3の体験的魅力となります。最初は失敗を繰り返すことになりますが、経験を積んでいく中でイメージがピタリと一致したときにカメラとの一体感を感じることができ愛機となるのです。

安易に撮影結果を見ることなく、デジタルが生み出した便利さから距離を置くことで、人間(の想像力)を中心とした写真機を創ろうとしているのです。


2つのカメラが同時に発表される意味

X-A7はカメラとスマホのUIを融合させ「リッチUI」へと進化し、X-Pro3はデジカメの基本装備であった背面液晶をあえて隠すことで「ストイックUI」へと進化しました。

選ぶという行為は人に自分の意思を認識させ自己責任を与えることになります。デジカメのUIという視点で見ると2つのカメラは逆方向に進んでおり、必然的にどちらのカメラが自分に合っているのかを選ばせることになります。

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もちろん価格の違いや、動画向きカメラと静止画向きカメラの違いなど、直接比較する人はいないかもしれませんが、富士フイルムというブランドが持つ「写真機」への想いが際立つ結果となりました。


10月26日のファンミーティングが楽しみだ

10月26日に上野の東京国立博物館を使ったファンミーティングがおこなわれます。X-A7の発売日が10月下旬、X-Pro3の詳細情報が10月23日と発表されていますので、ここでのタッチ&トライが最初の機会になるはずです。今からとても楽しみにしています。

上野は動物園を初め個人の歴史に刻まれた所があり、アメ横から秋葉原にかけてはさまざまな人が行きかうストリートフォトにとって魅力的な場所です。

開発発表がおこなわれた渋谷とは山手線の対角線にあり、新宿、東京に対してそれぞれダウンタウンの位置にあることも面白い点です。


この記事の中で使われている画像は、富士フイルムのホームページならびに公式Youtubeビデオからの引用です。

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