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プロトタイピングは作成半分、評価半分

プロトタイプとプロトタイピングの言葉の定義や使い分けについて話をすることが時々あります。プロトタイプは製品の原型としてのモノを指し、プロトタイピングはプロトタイプ作成を含む活動を指すと考える人が多いみたいです。

プロトタイプも色々な作成ツールが出てきてさまざまなモノが作れるようになってきています。いつかまとめてみたいと思いますが、今回は「活動」としてのプロトタイピングについて考えてみます。


プロトタイピングの活動範囲

モノ作りは楽しくてプロトタイプを作ることで満足してしまい勝ちですが、プロトタイピングの目的はプロトタイプを改善し最終的な製品に仕上げることにあります。

改善をおこなうためには評価して問題点を見つけなければなりません。つまりプロトタイピング活動の半分はプロトタイプを使った評価なのです。機能や性能の評価のために試作をする場合にはキッチリとデータを取り評価がおこなわれますが、ユーザビリティやUXを評価するためには人間中心設計プロセスにあるように、利用状況やユーザーを含めてプロトタイプを評価しなければならないため敷居が高く、結果的にテキトウな評価になりがちです。

事前に利用状況やユーザー(ペルソナ)が準備されていれば、気軽にプロトタイプを持ち込み評価することができます。人間中心設計プロセスでは情報としての明示が要求されており、プロトタイピング活動に当てはめた時にはUXシステムとしての利用環境、ペルソナを作っておくことになります。

実際ちゃんと評価をおこなうと様々な発見があり刺激をもらえます。プロトタイプを作ってただ自分で触ってみて評価を終わってしまうのであればチャンスを逃してしいるのかもしれません。


評価環境・評価手法を考える

製品開発における評価といえば先ず品質保証部門があげられます。また家電メーカーなどは以前からユーザビリティテストルームを持ち評価をおこなう部門がつくられたりしていました。

プロトタイピングの中の評価活動がこれらの一部または延長にあるものなのか、独自の環境や手法が必要なのか多くの企業で模索が続いている状態です。

特に開発の上流段階で製品の形や機能がまだ明確で無い段階でおこなう体験設計では、これまで投資がおこなわれて十分な活動がおこなわれてきたとは言えず個人の努力や工夫でやっている場合も多いと思います。

その中でも人間を包み込む製品を作っている自動車メーカーや住宅・オフィスメーカーは、製品のプロトタイプ=ユーザー体験のプロトタイプであるため、他の業界よりも先行しており、VRの活用も含めた様々な作成手法・評価手法を積極的に取り入れています。

具体例を示すことができない代わりに、概念的なことで評価環境や手法についてまとめてみます。

まずプロトタイピングの目的が製品(装置)の内部機構や機能にあるのであれば、プロトタイプの他にはいくつかの計測器があれば評価できます。一方その目的が製品を中心とするユーザー体験や社会との調和にあるのであれば、利用状況(環境)、ユーザー、製品を合わせた「UXシステム」をプロトタイピングする必要があります。

自分達で加工がおこなえる工房の横に広い体験スペースがあり、段ボールや発泡ボードなど簡単に加工できる材料で利用環境を作り、自分達がロールプレイによって簡易的な製品のプロトタイプをシナリオや動線、あるいは情報の流れを意識してやってみることから初めると良いと思います。

VRを活用すれば工房も評価スペースも不要になりますが、今の段階では全体認識と自由度という点で制約が大きく、むしろメタバース空間のデザインにおいてもフィジカルなプロトタイプを作って評価する価値があると考えています。

自分勝手にやってみるのではなく想定した利用環境を用意しユーザーの置かれた状況、特性や役割を演じるロールプレイによって、第三者評価と自己評価のプラスの面が得られます。

このように開発の最初の段階でUXシステム全体をプロトタイピングする意味は、人間中心設計で前提となる利用状況やユーザーを明確にできるだけでなく、それらの要素をプロトタイプとして作ることでデザイン可能だと考えるためです。そしてUXシステムの調和のためにできる全てを考えることがイノベーションに繋がっていくからです。

特別な例にはなりますが、大規模な社会実装実験なども長期視点に立てば一種のプロトタイピングであり、UXシステムの関係性に着目した評価手法だと言えます。もしそれと同等の評価を、時間も費用もあまり掛けずに開発の初期にやれるとしたら・・・というのが上記の体験設計プロトタイピング手法なのです。


体験設計で価値を生み出すプロセスに備えよう

これまでモノ作りによって製品を生み出してきた企業も、社会のさまざまな要求と調和のとれた体験として価値を生み出すことを目指し始めています。

Society5.0やデザイン経営がビジョンとして提供されましたが、それを実現するための具体的な方法が求められており、この人間中心のプロトタイピングのプロセスはその中の重要なものになります。

インターネットに出ている各企業の取り組みからも様々な動きが読み取れ、イノベーションのためのハッカソンから大規模な実証実験までプロトタイピング活動に注力していることが分かります。

実際には競争世界ですから企業内で秘密にされているプロトタイピング活動がたくさんあるはずです。どこまでオープンにできるか分かりませんがノウハウを社会で共有できればもっと良い世界になるのではないでしょうか。

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