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啓蟄のテーブル

● 今宵堂の酒器展 「啓蟄のテーブル」
2022年 2月23日(水)~ 3月8日(火)
12:30 ~ 18:00(17:30 L.O.)
会場 / うめぞの CAFE & GALLERY
京都市中京区蛸薬師新町西入不動町180
電話 / 075-241-0577
※ DMはこちら

巣ごもりの虫、戸を啓く。
ほのかな春の光に誘われて、土から顔をのぞかせる虫たち。
陽気を感じてそわそわし始めるのは、呑兵衛もまた然り。

四季それぞれを六つに分けたものが立春・春分・夏至などの二十四節気。
そしてその各節気を三つに分けたものが七十二候。
日にすると五日ほどの儚いこの季節の呼び名に添って、
小さな生きものたちをテーマにした早春の酒器をどうぞ。

土脉潤起 (つちのしょううるいおこる)

Rain moistens the soil・2/19〜23

立春を終えると節気は「雨水」へ。
雪は雨へと移り、潤いを得た大地は、脉(みゃく)を打ち始める。
水辺の生きものたちのように酒呑みたちも滴りをもとめておウチへカエル・・・。

「蛙猪口猪口」
長居の酔客に暇(いとま)を促すのにも・・・。
「亀箸置」

霞始靆 (かすみはじめてたなびく)

Mist starts to linger・2/24〜28

菜の花畠に入り日薄れ見わたす山の端、霞ふかし。
秋が霧なら春は霞。夜になれば朧(おぼろ)となりて、
蛙のなくねも酔いとともにさながら霞める朧月夜。

「霞皿」

草木萌動 (そうもくめばえいずる)

Grass sprouts, trees bud・3/1〜4

「萌え出でた若芽がしっとりとぬれながら」
高野悦子の詩で初めて知った、芽生えの言葉「萌え」。
近頃は何かに深く酔うこともさすようで。
霧のようにやわらかい春の雨の日に、ひと品の肴をこれに盛って旅に出よう。

「菜ノ花皿」

蟄虫啓戸 (すごもりのむしとをひらく)

Hibernating insects surface・3/5〜9

春に虫が寄れば「蠢(うごめ)く」。小さな生きものたちが這い出す頃。
「花無心招蝶 蝶無心尋花」と詠んだのは酒呑む禅僧・良寛。
縁起のいい五匹の蝙蝠もまた、夜の街へと羽撃いてゆく。

「蝶虫戯画蕎麦猪口」
「花蝶盃」
「五蝠盃」

桃始笑 (ももはじめてわらう)

First peach blossoms・3/10〜14

梅で始まり桃で闌(たけなわ)、桜で〆るピンクの春。
「咲」に口あれば「笑」に竹あり、つまり咲くと笑うは同じこと。
笑い声も響く宴も闌、吞兵衛の頬も彼の色に。

「桃瓷徳利・桃瓷杯」

菜虫化蝶 (なむしちょうとなる)

Caterpillars become butterflies・3/15〜19

じっと籠る様はさながら蛹(さなぎ)。
越冬を迎えて姿晴れやかに酒場へ繰り出したいもの。
平盃に燗酒を並々注いでスイスイと呑み干せば、気分は蝶のようにひらひらと。

「平々盃」

雀始巣 (すずめはじめてすくう)

Sparrows start to nest・3/20〜24

春分を迎え巣作りを始める雀たち。
晩秋の季語である「雀蛤となる」は思いがけない変化があることの例え。
小さな蛤を盃に模したのは、変化に惑わされず生きてゆこうなんてことではなく、旬の肴だから。

「蛤盃」

桜始開 (さくらはじめてひらく)

First cherry blossoms・3/25〜29

桜の木の下、そこは舞台。
明かりが灯ってゆくようにぽつぽつと細かな白が開き、やがて宴の舞台となる。
きょうの演目は、春を泳ぐ小さな恋人たちのロマンス。

「桜金魚盃」

雷乃発声 (かみなりすなわちこえをはっす)

Distant thunder・3/30〜4/3

長くは響かずすぐに止む春雷。
冬眠していた虫たちを目覚めさせる「虫出しの雷」。
稲と雷が交わると稲穂が実ると考えられて生まれた言葉が「稲妻」。
そう、雷は稲の米のつまりは酒の相手。

「稲妻盃」

玄鳥至 (つばめきたる)

Swallows return・4/4〜8

酒造の神でもある「少彦名命(すくなひこなのみこと)」。
その使いである燕がやってくれば、もう季節は春爛漫。
まあまあまあと酒を注がれたなら、燕返しで素早く返杯を。

「燕盃」

鴻雁北 (こうがんかえる)

Wild geese fly north・4/9〜13

春に来るのが燕ならば、春に去ってゆくのが雁。
北へと帰る彼らが飛ぶ曇り空が晩春の季語「鳥曇(とりぐもり)」。
深酒が過ぎていなければ、きっと酒杯の暮空に雁が飛ぶ。

「鳥曇酒杯」

虹始見 (にじはじめてあらわる)

First rainbows・4/14〜19

虹に虫偏がつくのは、空に現れた「蛇」だから。
そう、いつまでも地面を這うわけではない。
恵みの酒で心晴れたら、蝸牛と天道虫を従えて天に昇り龍となる。

「蛇ノ身徳利・蝸ノ目猪口」
「七星鉢」

七十二候のうち、春の節気の真ん中「雨水」から「清明」の間の「候」を酒器で辿った早春の展示でした。これらの小さな季節の名前は、きっと先人がそれぞれの時を細やかに楽しもうとした跡。その一時一時の景色を楽しむように、一夜一夜の小さな晩酌を楽しむ輩でありたいと思います。

時勢に関わらず、生きものたちは冬が来れば眠り春になると這い出してきます。そう、春は必ずやってくる。