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【今宵は読書会】ぬるい毒/本谷有希子


✾『今宵は読書会』


「今宵はここまでに」から派生して始まった読書会。今宵メンバー3人+課題本を読んでくださった方々で実施しています。
課題本は私たちが大好きな高瀬隼子さんの選書リストから選んで、月に1冊ずつ読みすすめています。


✾今回の課題本


今回の課題本は本谷有希子さんの「ぬるい毒」。
本谷有希子さんは劇作家、小説家、演出家、女優…など幅広く活動されています。ちなみにこの「ぬるい毒」は第24回三島由紀夫賞候補、第145回芥川賞候補、第33回野間文芸新人賞受賞の作品です。

3人で課題本を選んでいるときに、「1冊目は薄めの本にしよっか…」とこの本を選びましたが、なんとなんと中身が濃厚すぎて!話しだしたら止まらない、深堀たい箇所が多すぎる1冊でした。

✾あらすじ

あの夜、同級生と思しき見知らぬ男の電話を受けた時から、私の戦いは始まった。魅力の塊のような彼は、説得力漲る嘘をつき、愉しげに人の感情を弄ぶ。自意識をずたずたにされながらも、私はやがて彼と関係を持つ。恋愛に夢中なただの女だと誤解させ続けるために。最後の最後に、私が彼を欺くその日まで──。一人の女の子の、十九歳から五年にわたる奇妙な闘争の物語。渾身の異色作。

✾こんなテーマでこんなお話し

①熊田と向伊は恋愛だったのか?


熊田と向伊は恋愛だったのか、一番時間を使って話し合ったところ。恋愛だったor恋愛ではなかった、でだいぶ意見が分かれました。
●恋愛派
・熊田が強がっているように見える。向伊という良くない男に引っかかって、更に抜け出せない熊田は自分は恋などしていないと考えていたのではないか。登場人物で唯一熊田だけが恋をしていたように感じた。
・何年かおきにしか連絡が来ない向伊を待っていた。向伊のところに行くために親に反抗してまで上京した。本気じゃないとできないと思う。
・熊田の言動にちぐはぐさがあるけど、理性と本能がごちゃごちゃになるのが恋愛だと思う。

●恋愛ではなかった派
・恋愛ではなく熊田の自己との戦いのように感じた。恋愛っぽい執着をしている印象はなかった。イケメンと付き合っている自分はいい女だと酔っている感じ。
・向伊は無差別犯罪者のようなイメージ。たまたま熊田が巻き込まれただけではないか?(=熊田である必要はなかった)
・垢抜けた熊田がアクセサリー代わりにイケメンの向伊との関係を続けていたように感じた。
・熊田は「騙されてやっている」というスタンス。
・全体的に好きとか愛おしいとかそういう気持ちを表す言葉が出てこず薄っぺらい。


②熊田って友達いないよね?友人の中に熊田のような人がいたらどうする?


・熊田のような人は反対されれば反対されるほどのめり込んでしまいそう。熊田自身は否定したりせず、逆に向伊に仕掛けて引き離してやりたい。
・熊田も向伊も面倒そうなので自分は関わらなくてもいい。巻き込まれたくない。
・他人の人間関係には他人が口を出すところではないのではないか。悪い恋愛をすることが必ずしも不幸に直結するわけではないので、積極的に介入はしないけど、熊田の話は聞ける位置にいればいいのではないか。
・熊田に自分がもっと価値がある存在だということを教えてあげる。自己肯定感を上げてあげる。

③「ぬるい毒」って結局何?


・恋愛小説に似せた宗教に近いもの。
自分は不幸ではない、人に決めつけられたくないという気持ち。
・女性ホルモン。
向伊は“魅力のかたまり”。熊田にとって女性ホルモンをどばどば出させた向伊だったので、女性ホルモンが出たことで脳も身体もじわじわ勘違いしていったのではないか。
・良い薬も使い方を間違えれば毒になる。
最初は恋愛にしたいと思っていたかもしれないから薬だったかもしれないが、どんどん抜け出せない毒に変化してしまった感じ。
・恋愛で生じる脳や身体の誤作動。
・人間恋愛ライアーゲーム。
嘘の上で成り立つ関係。ぬるい温度で騙しあっている。

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上記以外にも
・この小説は男女で意見が変わる?
・妄想のようなシーンどう思った?
・向伊の心情が分からなくない?
・恋愛ってそもそも宗教みたい?
・元カレ、元カノ、何で思い出す?
・最後のスピード感はなにゆえ?
などなどたくさんのテーマが出ました✌

19歳から24歳までの不安定でありながら貴重な年代に、熊田は何を思いながら向伊とともに過ごしたのか。それは恋愛だったのか、恋愛などではなかったのか。薬だったのか、毒だったのか。このあと二人はどうなったのか。たくさんのテーマで話し合うことができました。

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✾ 3人の感想 ✾


ともや
読了した瞬間は、この本の正体がわからない。一体なに読まされた?ってなります。だって、バカすぎるんだもん、熊田。だから、この本を読んでいるときは安心できるんです。自分の恋愛はまだマシだって。でも、そうして人の恋愛を見下しているうちは、自分自身も人からバカにされる恋愛から抜け出せなくなる。そう、この本こそ私たちとってのぬるい毒なのですよ。

しょう
結局のところ熊田にしろ向伊にしろ何がやりたかったんだろうか。恋かな?愛かな?恋じゃない愛じゃない、どこか聞き覚えのあるメロディが頭をよぎります。笑
どんな人生も一度しか生きれないから搾取したり搾取されたりすらも肯定してあの頃は若かったよねーと言いながら、熊田さんとお酒飲みたい。向伊はいいや笑
そうやって答え合わせをしながら解毒するのもあり、かな。



ゆかこ
自分が経験してきた“世間的に見たら悪い男女関係”を苦く思い出すような1冊。人のふり見て我がふり直せと。薄い小説なのに掘れば掘るほど人によって様々な考え方が飛びだすので、とても楽しい読書会でした。熊田さんはからっぽだったかもしれないけれど、年を重ねるにつれて自分に向かって生きていってくれたらいいな。

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「今宵はここまでに」発足以来、初めての読書会。3回に分けてたくさんの方々に参加していただきました。やっぱり読書会って楽しい!次回もよろしくお願いします⁺⊹˚.⋆


では、今宵はここまでに。


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