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第三滑走路新設に伴う集団移転地の記録3

空港第2ビル駅から車で10分ほどの場所に一鍬田という地域がある。
千葉県香取郡多古町の西部に位置するこの集落は成田空港の第三滑走路新設のため、大部分が空港用地になることが決まっている。
第三滑走運行に向けて日々移り変わる集落の姿を追っている。


家の裏にはコンテナが積まれている。

「おらのじっさん(旦那さん)は隣村の三男坊だったんだ。結婚してからふたりで大根を作ってな、知ってっか?昔は大根は野菜の王様なんて呼ばれてたんだど。毎日トラックに積み込んで東京まで売りにいってたんだ。落花生も作ったな。一生懸命朝から晩まで働いてな。農協からお金を借りてな、ようやく家を建てたんだど」

昔は収穫から出荷まで全て手作業で行っていたという。
収穫量は時々の天候によって左右されるため、人足を雇うことも難しく
旦那さんとふたりで朝から晩まで作業するほかに方法はなかった。

「じっさんは脳梗塞をやってな。トイレから出てこねなと見にいったら動けなくなっててな。急いで病院に連れていったが、麻痺が残って。おらひとりで農作業をやりながらじっさんの世話もして大変だったんだが、色々な人に助けられながらなんとか生きてこれたで」

数匹の猫と暮らしている。移転した方が猫を置いていくこともあり、野良猫の数が増加している。

旦那さんは4年前に他界し、
現在は息子さんや近隣の友人の手を借りながら農家を続けている。
代替地は未だ見つかっておらず、何年後に移転できるのか分からないまま
時間だけが過ぎていく。

現在成田空港は現在、A・B滑走路2本の滑走路で運用されているが、
朝夕のピーク時には発着枠が足らず上空での離着陸待ちが度々発生している。
第三滑走路(C滑走路)が新設されることで、現在の年間34万回の発着枠が
年間50万回へと大幅に増加。離着陸待ちが解消されるという。

2029年3月の運用を目指し工事が進んでいるが移転対象となる地域は広く、
先祖代々の土地から離れて暮らすことに抵抗感がある方は将来への不安を抱えて日々を過ごす。

「じっさんは杖つきながら家の周りを歩くのが好きでよ。だども砂利道で危ないからよ、つまづかないように道を整備してやったんだよ」

おじいさんが歩きやすいように整備された林道。
土地の風景、何気ない景色にもさまざまな想いが宿る。
2020年撮影。
上の写真、林道の現在のようす。家々や田畑を取り囲み防風林としての役目を担っていた木々が伐採され、集落には強い風が吹き抜けるようになった。2023年撮影。

土地の風景、何気ない景色にもさまざまな想いが宿る。
それは人々の記憶でもあり、土地の記憶でもあるように思う。
2029年3月に向けて消失の最中にある集落の姿を追っている。


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