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恵方巻きに、おにぎり。コンビニの食品ロス削減に見る「価値観のトランスフォーメーション」

いつしかすっかり定着した恵方巻き

今年も間もなく「鬼」の季節がやってきます。

そう「節分」です。節分とは、その文字が示す通り「季節の分かれ目」のことで、元来は立春・立夏・立秋・立冬、それぞれの前日のことをすべて節分と言っていましたが、今ではその中の立春(今年であれば2月3日)の前日のみを表すようになりました。

なぜ、節分には鬼を追い払うのでしょうか。調べてみると、季節の変わり目というのは、とかく疫病などの災厄が起こりやすいもの。そうした悪しきものを鬼に見立てて、それを退散させようとすることが起こりなのだとか。平安時代から続く「追儺」(「ついな」あるいは「おにやらい」)という儀式に由来するとのことですから、かなり長い歴史を持つ風習のようです。

ちなみに、私が子どもの頃は「節分=豆まき」でしたが、今では豆まきはそのポジションを「恵方巻き」にすっかり取られてしまったように見えます。もちろん、豆まきや豆を食べる習慣が残っているご家庭も多いでしょうが、楽しさや華やかさという点では、どうしても恵方巻に軍配が上がってしまうのではないでしょうか。

恵方巻きについても、少しリサーチしてみると、発祥が大阪・船場あたりであるのは間違いなさそうです。ただし、もちろん「鬼はらい」のように古いものではなく、始まったのは明治時代とも戦前ともされ、はっきりとはしていません。しかし、ここまでメジャーになるきっかけは、1980年代にセブンイレブンが恵方巻きに注目して販売を開始したことにあるようです。

「その年の恵方(縁起の良いとされる方角)を向いて、太い巻き寿司を無言で丸かじりする」という、こうして文字にすると改めておかしさを感じるこの風習には、想像以上の波及力がありました。販売する各社が工夫を凝らして、個性豊かで多様なバリエーションが生まれたことも、ブームそして定着を後押ししました。「恵方ロール」なんていうスイーツも、考えてみれば図々しい存在ですよね(笑)。

コンビニ各社の食品ロス廃棄への取り組み

さて、そんな恵方巻きですが、節分当日にしかその価値を発揮しない食べ物ですから、商売をしていくと、ある問題が生じます。言うまでもなく「売れ残り」です。そして恵方巻きは賞味期限が短いので、それはそのまま「食品ロス」になることを意味しています。数年前からは、店頭に大量に陳列された恵方巻きが廃棄されることがニュースになって、世間を騒がせるようになりました。

特に2015年に国連でSDGsが採択され、地球環境や私たちの社会の持続可能性への懸念が高まる中では、食品ロスは極めて重大なテーマになりつつあります。消費者庁のウェブサイトでも以下のようにして、問題提起がされています。

日本では、年間2,550万トンの食品廃棄物等が出されています。このうち、まだ食べられるのに廃棄される食品、いわゆる「食品ロス」は612万トン。
これは、世界中で飢餓に苦しむ人々に向けた世界の食糧援助量(平成30年で年間約390万トン)の1.6倍に相当します。
また、食品ロスを国民一人当たりに換算すると"お茶腕約1杯分(約132g)の食べもの"が毎日捨てられていることになるのです。「もったいない」と思いませんか?

こうなると、販売各社も食品ロス問題を放っておくわけにはいきません。恵方巻ブームの仕掛け人とされるセブンイレブンは、予約制を導入して利用者に予約を促した結果、2020年は廃棄に伴う損失が前年比で7割減少したそうです。同じく、ファミリーマートとローソンでも、前年に比べて5割も廃棄ロスを減らすことができたとのこと。

「大量の見込み生産 → 一定量の受注生産」という生産方式の切り替えが、食品ロス問題の解決に大きく貢献しているわけです。さらに、恵方巻きの話ではありませんが、ローソンではAIを活用することで、おにぎりやサンドイッチの需要予測を開始しています。これによって担当者の経験に頼っていた生産や仕入れに対して、その誤差を3割改善できる見込みです。

同社では「2030年までに店舗での食品ロスの半減を目指す」としていますが、テクノロジーの進歩、そして社会からの強い要請によって、その目標はもっと前倒しになるのでは(というか、むしろそうせざるを得ないのではないか)と個人的には思います。

テクノロジーの進歩による廃棄ロス削減という点では、こちらもグッドニュースです。セブンイレブンが2021年度を目処に、おにぎりの消費期限を今の2倍に伸ばすというのです。これは保存料などのせいではなく、包装や温度管理技術に基づくもので、これによって現在の「18時間」という消費期限を、「1日半以上」に延長できるのだとか。そしてこれが実現すれば、おにぎりの廃棄は半分になるというのですから、もちろんまだ半分は残るとは言え、素晴らしいニュースだと思います。

価値観自体をトランスフォーメーションすること

コロナの影響で、百貨店の業績が極めて不振です。住宅街ではなく都市の一等立地にあること。百貨店を支える主力顧客はシニア層であること。そうした層が都市部に出てこなくなったので、確かに百貨店の不振は「コロナのせい」という側面もあると思います。しかしそれ以前から長らく指摘され続けてきたように、百貨店というビジネスモデル自体にそもそも構造的な問題があることは言うまでもないでしょう。

私は食に関する仕事をしていますが、百貨店に残る悪しき風習を今でも耳にすることがあります。百貨店の稼ぎ頭である、いわゆる「デパ地下」。閉店に近い時間に訪れても、それなりのボリュームで商品が陳列されている様子が見てとれます。最終的に売れ残ったそれらは、販売員などに格安でわたる以外は廃棄されてしまいます。とある百貨店には「パン専用ゴミ箱」があって、出店しているパン屋さんは閉店後にそのゴミ箱に大量にパンを流し込むように捨てると言います。

なぜそんなことになってしまうのか。百貨店側は出店している店舗に、あるルールを課しているのです。それは「棚から商品を切らすな」というものです。スカスカのショーケースは魅力に欠け、お客さんの買う気を削いでしまう。売上を、そして利益を最大化するという目的のために、売り場に商品をたくさん並べるようにと指示するのです。

これは百貨店に限った話ではなく、駅ビルをはじめ商業施設でも同様の事態が起こっています。けれども、こうしたやり方はどう考えても間違っていると私は思います。今回触れてきたコンビニ各社は、生活者からの批判を浴びたからということもあるでしょうが、だからこそこれまでのやり方を見つめ直し、そしてテクノロジーを活用して、新しい時代に貢献しようとしているように感じられます。

巷では「トランスフォーメーション」がバズワードになっています。しかし「手口」をトランスフォーメーションする前に、まずは「価値観」自体をトランスフォーメーションしなければならない時代です。SDGs的な価値観は、ただのキレイゴトやお題目ではなく、すでに前提となりつつありますし、それに反する価値観を持つ企業に対しては厳しい目が向けられます。言うまでもなくその先にあるのは淘汰です。

まずは価値観自体を時代にあわせてきちんと見つめ直すこと。そしてテクノロジーの力を活用して、その具現化をスピーディに実行していくこと。コンビニ各社の食品ロスへの取り組みからは、学ぶことがとても大きいと思います。

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