見出し画像

ChatGPTは、コピーライターの脅威になりうるか。

こんにちは。コピーライター歴28年のこやま淳子です。

最近、「コピーなんてそのうちAIが書く時代になる」と、言われることがよくあります。そのたびに私は「コピーって実は書くより選ぶ方が難しいんですよ。いくら書けても、選ぶのはプロフェッショナルな人間がやらないと」と答えるようにしています。

しかしAIにコピーが書けると言うのは本当でしょうか。実は私はそこもあまり信じていませんでした。だって30年近くコピーライターをやってる私でも、楽をしてシステマチックにコピーを書こうとすると、だいたいうまくいかないんです。例えば何かの法則に当てはめてコピーを書こうとしたり、他の仕事のコピーを使いまわそうとしたり、グーグルで検索した関連ワードを機械的に組み合わせようとしたりしても、たいていいいコピーになんてなりません。

しっかり睡眠をとったフレッシュな脳で、課題を理解し、表現を磨き、
毎回ちゃんと右脳と左脳をフル稼働して書かないと、いいコピーってどうもできない。この右脳と左脳のフル稼働具合をシステム化するのって結構難しいんじゃないかなと思うわけです。

でもそれは私がコピーライターだから、無意識に自分の立場を守ろうとしてそう思ってしまうだけかもしれない。一度AIの現実というものを確認してみないと。そう思って、ChatGPTにコピーを書けるのか? を、検証してみることにしました。

実際にコピーを書かせてみた


まず大切なのは、最新のChatGPT4で、有料版を使うこと。無料版だと出てくる回答のレベルが全く違うらしいのです。次に、ChatGPTのマインドセットをすること。例えば「私はコピーライターです。Aという食品会社のBというパスタのコピーを考えています。あなたは代理店のコピーライターとして、私の仕事を手伝ってください。」などという「前提条件」や「役割」を伝えます。「Bはグルテンフリーのパスタです。健康に気を使っている人には人気がありますが、美味しくなさそうだと思われています。そこでBが「グルテンフリーなのに美味しい」ということを伝えるコピーを考えてください」のようなテーマも詳しく書いていきます。そうすると、10本くらいのコピーを3秒くらいで考えてくれます。

例えば、上の課題はいま私がテキトーに考えたものですが、仮にそれをそのままChatGPTに突っ込んでみると、以下のようなコピーが出てきました。

…長い。普通すぎる。説明的すぎる。

出てきているのは確かに「コピーらしきもの」ではありますが、ものすごくベタで表面的な言葉の羅列。「グルテンフリーを好むのってどんな人?」とかいう深掘りもなければユニークな表現の発見もない。

もしかして素人の方が考える助けにはなるのでしょうか? でもプロが打ち合わせに持って行けるレベルではありませんし、これだったらコピー年鑑や別業種でヒットした商品のコピーを研究した方がよほど頭の刺激になりそうです。まあ挫けずもう少し課題を与えてみましょう。

…短くない。ぜんっぜん短くない。ちょっとでも拾えるようなおもしろい切り口があればいいのですが、使い古されすぎたワード、もしくは「舌禍響く」とか使いにくい単語ばかり。しかもいちいち「短いながらも魅力的で興味を引くメッセージとなっています」と、自分を売り込むメッセージを入れてくるあたりが、なんだかうざいです。

でもそうか、いちいち「グルテンフリー」と入ってるから長くなっちゃうのかな、と思い、「グルテンフリーという言葉を入れずに考えてください」とオーダーしたところ、

うーん。まだ長いし、相変わらず使えるものがない。そこで「Bパスタと入れず考えてください」とオーダーしてみたところ、

口答えか!

…あ、すみません。なんかだんだんダメなアシスタントと会話してるような気がしてしまい、つい。

そこで、ちょっとだけヒントをあげることにしてみました。「例えばこんなコピー」という感じで、(ここであまり脳を使いたくないので、ごく典型的な)コピーの例を入れてみます。

いやいや、そのコピーの前半、私のコピーのパクリじゃねーか!

…すみません。つい言葉が汚くなってしまいました。しかもコピーよりも、その後の売り込みの言葉の方が長い…。ますますダメなアシスタント感を押し出してきます。

ダメダメ。そんなんじゃ。「もう少し考えてください」と圧をかけてみると、

なんだか上に出てきたコピーの使い回しのようなものが出てきました。しかもひとつ前の課題はすっかり忘れてる感じ。負けずにしつこく追加コピーのオーダーをすると、狂ったように同じようなコピーを提案し続けてきます。

まあしつこくオーダーを変えながらやっていけば、そのうち使えるものも出てくるのかもしれないですが、そのオーダーを考えている間に自分でコピーを考えた方が効率は良さそう。

いいコピーのデータが入っていない?

ちなみに、実際の仕事で使ってみたときも割とこんな感じで、本気の仕事にはあまり使えないなあと思うことが多かったです。なんというか、コピーらしき形のものは出てくるけれど、それがピクリとも人の心を動かさない内容であるため、打ち合わせにこんなコピーばかり持っていったら速攻仕事なくなるだろう。というレベルです。

なぜこんなにレベルが低いんだろう。という理由はわかりました。いいコピーのデータが入っていないようなのです。

例えば、「食品の名作コピーを教えてください」と言ってみると、聞いたことのないようなコピーばかり出てきます。

もしかしてこれは海外で使われたコピーなのでしょうか? ひょっとして日本でも使われていたのかもしれませんが、検索しても出てこないし、コピーライターの私も知らないし、わざわざピックアップするほど有名なものとはとても思えません。ロッテだったら「お口の恋人」とか、カップヌードルだったら「HUNGRY?」とか、同じメーカーでももっともっといくらでも名作コピーってあるはずです。そしてこれらのコピーを見ると「極み」とか「至福」とか、先ほどのBパスタのコピーに使われていたワードが散りばめられている。なるほど。つまり、もっといいコピーを学習していけば、もしかしてもう少しマシなコピー提案ができるようになるのかもしれません。

企画のブレストには多少使える?


しかしコピーにはまだまだ使えないけれど、プロモーション企画には多少役立つかもしれません。「ネットを使った認知度アップ企画」を相談してみました。

なるほど、すごく基本的ではあるけれどまずは考えなければならない企画が並んでいます(その辺はコピーよりも評価が甘くなる私)。もう少し聞いてみましょう。

なるほどなるほど。さらに聞いてみましょう。

…えーと。すみません、私が料理インフルエンサーに詳しくないので、いいのか悪いのかよくわかりません。そこで、質問を変えてみました。

…なんだこのリスト(笑)。

ダウンタウンやナイナイが人気あるのは当たり前として、とろサーモンとかウーマンとか、ちょっと尖ったところに切り込んできます(いや私はどの方も好きですが)そしてなんとなくこのリスト、数年前のデータから作っている感が…笑

とはいえ、これも実際に企画する人がブレスト相手としてChatGPTを使うのなら、もしかして多少役には立つのかも。一人で考えてると広がらなかったり、気分転換が欲しいこともある。しかしコピーの場合と共通して言えるのは、やっぱり選ぶ側の力量が大切ということと、決して画期的アイデアは出てこないというところでしょうか。


そんな感じで、まだあまりコピーライティングには使えるレベルとは言い難いChatGPT。けれど、もしかしてこの先はどんどん進化していくのかもしれないし、使い方によってはすごくいい働きをすることもあるのかもしれません。実際に使ってみて思ったのは、これはコピーライターの脅威になるというよりは、気軽に相談できる相棒候補なんじゃないか?ということ。 いまはダメダメなアシスタントだけど、この先もっといいデータをどんどん学習していけば、もしかして延々と音を上げずに無茶振りに答えてくれる、アイデアを採用しなくても文句も言わない、すごくいいアシスタントになってくれるのかもしれません。そんな未来を期待しながら、この先もたまにこの子と遊んでみようと思っています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?