見出し画像

版下にFAXでもらった ロゴを貼った話


昔の話をすると
ヤレヤレと煙たがられそうだが、


オブジェクトからトリムマークとか、
パッケージしてからアウトラインとか、
ボタン一つであっという間の作業をしていると


あの、いちいち面倒くさい版下作業が
とても懐かしく感じる時がある。


今でもQ数表が引出しに入っているので、

どなたか!お客様の中で
Q数表からの写植発注できる方いらっしゃいませんか!

などと言われたら、おずおずと手を上げ

「私でお役に立ちますでしょうか」などと答えるだろう。


代理店制作スタッフとして働き始め
5年ほどたったある日、
翌日入稿の版下作成で、会社に泊まり込んでいた。

写真点数が100点以上、
写真に商品名と金額をのせる、ありふれた商品チラシ。
しかし、単純なモノでも数が多いと時間もかかり、かつ混乱する。

透明シートにトンボ(トリムマーク)シールを貼り、
アタリ写真を貼った台紙の上に乗せる。

写植の裏にペーパーセメントを塗り、
カッティングシートの上でまっすぐ切り、
写真と商品名や値段がズレないように、
曲がらないように、
慎重にピンセットで貼り付ける。


この一連の痺れる作業を、
コツコツと一人で何度も繰り返していた夜中の1時。


酔っ払って終電を逃した
営業社員何人かが会社へ戻ってきた。

そのうちの仲の良い一人が
酒臭い息を吐きながら寄ってきて、

「あれー?一人?まだかかるの?」

「うん、明日入稿なんで・・」

「・・・この線曲がってるよ?」

「(チッ)あ、そこのケイ線アタリなんで大丈夫。」

「へー、、、ん?ここの商品だけ金額入ってないって、おかしくね?」

「あ?!」

指摘された箇所はなるほど、
値段表記の数字が漏れている。

しまった、写植発注忘れだ。
しかし、そんなことで慌てはしないさ5年目だからね、、、

もちろん、今から発注なんてしませんよ、
他の箇所で使用する写植文字をね、
こう慎重にコピーして、貼り付けるんですよ。

ここの9と、ここの5と、
あそこの1を組み合わせてまっすぐ貼ると
195円のできあがり!
コピーした文字だから、
線は甘いけど小さいからバレない。


おまえにプライドは無いのか?


版下の神の嘆きは
残念ながら徹夜の耳には届かない


一連のプライド無き作業を監視していた営業が
またもや指摘してきた。

「これ9の数字曲がってない?」

「(チッ)油絵科出身なんで曲がっちゃうんだよねー」

全油絵出身者に大変失礼な話だ。

適当な言い訳だとは思いながらも、
明け方近くの作業で、もうヘロヘロなのだ。

冷や汗をふきふき、確認作業も念入りに作業が終わる。

同時に他のスタッフが出社してきたので、
最終校正をお願いし、コーヒーを買いにコンビニへ。

戻ると後輩の子が慌てながら
「先輩、、ここロゴが抜けてます!」

手書きのラフデザインには社名の頭に丸い文字で可愛く
(会社ロゴ)と記載されている。


やっちまった、、、


入稿まで残り1時間

まず、営業担当に確認だ!

すいませーん。クライアントからもらってないでーす!

キャピッとした営業女子が天真爛漫に返事をする。

・・。


兎にも角にも素材確認

ぜひ家訓にしてもらいたい。

無いことに気がつかなかった私も同罪だ。
家訓にしよう。


色校正の時に差し替えてもいいが、
こちらのミスだと1版数千円の料金が発生してしまう。

弱小代理店には数千円が痛い


しかし、そんなことで慌てはしないさ5年目だからね、、、

今こそ最終手段発令の時だ

営業にこう伝える

先方に、できるだけでっかく
ファックスでロゴ送ってもらって!
ファインモードで!

クライアントへ何て伝えたのかは知らないが、
ガタガタの線のでっかーいロゴが
ファックスからガガガと流れてきた。

よし、黒マジックで修正!
みるみるガタガタも真っ直ぐだ。
いや油絵科出身だから
多少アーティスティックに歪んでいるが、
ご愛嬌と思ってもらいたい。


おまえにプライドは無いのか?


版下の神の嘆きは
残念ながら完徹の耳には届かない


コピーでいい感じのサイズに縮小.

ペーパーセメント塗って

カッティングシートに乗せて切って

ピンセットで貼り付ける

完璧だ.

完璧だ.


印刷会社の営業マンが、時間通りに版下を取りに来た時には
もう余裕の笑顔で

「遅かったですね、とっくに準備はできてましたよ、、」


辛く愛しい版下作業
懐かしいけれどもう二度とやらなくていいな

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?