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推しとつながる瞬間ー星野源さんとの出会い

世は、空前の推しブームだ。テレビでも「推しがいることの素晴らしさ」について特集が組まれたりしている。推しがいれば、毎日が充実するし、お金を稼ぐ意味が生まれるので働くモチベーションにもなるのだという。

「推しなんて探しても見つからない」。
少し冷めた性格で、夢中になれるものが人生でそれほどなかった自分にとって、推しがいる生活なんて縁のないものだと思っていた。そう、6年前のあの瞬間までは。

2018年12月17日、「星野源×マークロンソン Live in JAPAN 2018」が幕張メッセで開催された。
その少し前から「星野源のオールナイトニッポン」のリスナーで、星野源さんになんとなく馴染みを感じていたし、曲もけっこう好きだなと思っていたので、思い切って友達を誘ってこのライブへ行くことに。

ライブは前半がマークロンソンさん、後半が星野源さんという流れだった。
私たちの座席は、中央よりやや後ろ。前半のマークロンソンさんの出番の際は、ステージのレイアウトの関係もあって、本人がまったく見えない。画面には本人が映っているが、現実感がなく「本当にマークロンソン来てるの……?」と不安に思うくらい取り残された気分になった。

「このまま何も見えなかったらどうしよう……」
不安な気分のまま、後半の星野源さんパートに突入したが、幸いにして、前の人が少し移動して、豆粒サイズながら源さんの姿が見えるように。少しホッとしたところでライブが始まった。

テッテッテテレテレ、テレテレ…
テッテッテテレテレ、テレテレ…
私に異変をもたらしたのは、3曲目が演奏されたときのことだ。
源さんは水色のエレキギターを手に取り、聴き馴染みのないフレーズを弾き始める。何の曲なのかわからないが、クリーンで軽快な音が会場全体に響き渡る。
テーレッテテ、テレ、テーテ…
少し間が空いてから、馴染みのあるフレーズがはじまり、この曲が「桜の森」であることに気づいた。ライブ用にアレンジされていたのだ。CDの音源と少し違った演奏が体内に入ってくることにより、いま、この瞬間に、この場で、音楽が生まれているのだなと実感して、意識がぐっと引き上がった。

極限まで集中力が高まると、音楽の聞こえ方も少し変わってくる。歌が、まるで直接心に入ってくるような感覚になったのだ。ステージから遠いとか、スピーカーの音が反響しているとか、そういった次元ではない。源さんと自分が一直線に細い糸で結ばれて、その糸をたどって歌がスッとそのまま心に入ってくる。

そして曲はアウトロへ向かい最高潮へ。ギター、キーボード、ベース、ドラム…。それぞれのパートがはちゃめちゃにアドリブで演奏を盛り上げていく。全部の音域で音が鳴り、心地よく混ざりあう。源さんはその音をかみしめて、本当に楽しそうな笑顔でギターをかき鳴らす。

ああ、楽しい。
硬く厚く自らを覆っている自我という壁が、ゆっくりと音楽と混ざり合いながら溶けていく。「所詮、人間はひとり」そんないつもの冷め切った思考はどこへやら。生まれたままの魂と魂がひとつになる感覚になった。

ライブが終わる頃には、すっかり源さんの虜となっていた。早く次のライブに行きたい。ライブで演奏していた曲をCDと聴き比べたい。ライブで演奏しなかった曲も聴きたい。何を考えながら演奏していたのかラジオで裏話を聞きたい。とにかく源さんの成分を摂取しないといけない体になっていたのだ。

こうして私は、星野源さん「推し」の生活を送ることとなった。

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