見出し画像

テレビが見られない!…輪島町野中継局の停波から復旧まで

能登半島の震災では放送設備にも影響があり、長期にわたってテレビやラジオが受信できない地域がありました。

その一つが輪島市の町野町まちのまちで、ここにはNHKと民放の中継局(親局から電波を受信して、放送エリアに送信する)が設けられています。

<基本情報>

〒928-0205石川県輪島市町野町西時国
岩倉山いわくらやまの山中にあります。

西時国エリアの空撮

赤い矢印の地点に中継局がある。Googleマップより。


空撮アップ

上の写真の赤丸部分を拡大すると……あった!

中継局は標高356mの岩倉山の頂上にあります。電波が遠くまで届くよう、高いところに設置されているのです。

航空写真をじっくり見ていくと、山頂からふもとまで曲がりくねった山道が通じています。保守点検の人なんかはこの道を使って定期的に通ってるんでしょうね。

NHKと民放4局の設備があります

TV📺NHK総合と教育、テレビ金沢、北陸放送、北陸朝日放送、石川テレビ
ラジオ📻NHK-FM

以下のサイト☟に輪島町野局の鉄塔や局舎の写真が載ってます。


放送エリアのめやす

一般社団法人放送サービス高度化推進協会(A-PAB) のサイトより

上の図は電波が届く範囲を示したものです。
地上波が届きにくいエリアは、輪島市が運営するケーブルテレビで補っています(石川県は全世帯のうち約4割がケーブルテレビを視聴)。

ちなみに今回の震災で停波したのは、輪島町野局の他に、輪島局、舳倉局(輪島局に併設)、東門前局の計4局です。以下のエリア図を参照。

右から輪島町野、輪島、舳倉、東門前です。どの局も山の上にある
A-PAB のサイトより


<停波から復旧までの経緯>


1月1日午後4時10分ごろ:
地震発生

1月2日午後3時ごろ:輪島町野TV・FM中継局の非常用バッテリーが切れ、放送を停止(停波)。700世帯でNHKと民放のテレビ、FMが受信できない状態に。


地震による崖崩れで道路が寸断されたことにより、町野町は孤立状態に陥りました。

輪島町野局は非常用のバッテリーでしのいでいたけれど、これは24時間くらいしか持たない。発災翌日の1月2日、バッテリー切れで停波しています。

1月4日の総務省のリリース。
輪島市はほとんどの中継局が停波してた。


1月10日頃には孤立状態はほぼ解消されましたが、地上波の放送は途絶えたままでした。

復旧が進まない状況を見て、NHKは9日から衛星放送を臨時で使いはじめます。3月末で終了予定だったBSの3チャンネル(BS103)で、総合テレビを流すことにしたのです。

避難所へのテレビ、ラジオの設置も進められました。

他の中継局は自衛隊ヘリによる燃料搬入を受け、非常用の発電機を動かして復旧しましたが、輪島町野局は停波したままでした。総務省のリリースには「到達困難及び燃料の持続的補給困難」の文字が。

1月11日の総務省報告。輪島局と舳倉局に関しては、NHKが総務省に燃料搬入を要請。詳しくはFLASHの記事を参照のこと。輪島町野局は対象外だったようです

陸路がダメなら他の局と同じように、空からヘリでバッテリー運んでもらえばいいのに、と思いましたが、そう簡単ではないようで……。

この局のように小規模な中継局は、非常用の電源というと小型のバッテリーしかなく、24時間くらいしか持たないそうです。かといって、毎日ヘリを飛ばすわけにもいきません。

総務省地上放送課の担当者は「輪島地域のようにカバー範囲が広い大規模局には発電機が設置され、タンクに一定の燃料も貯められる。一方、町野地域のように小さなバッテリーで対応する局は、ヘリで行けたとしても継続支援を行うのが難しく、商用電源の復旧を待つしかない状況だ」と説明する。

2024/1/16東洋経済オンラインの記事より。強調筆者


輪島市の他の中継局が次々と停波を脱するなか、輪島町野局が復旧したのは、1月2日の停波から3週間以上たった1月24日のことでした。

NHKは停波のあいだは代替措置として、先にあげた衛星放送の3チャンネルで総合テレビを臨時放送したり、NHK NEWS WEBというサイトで総合テレビを同時配信するなどしていましたが、それだけでは足りません。

なにせこの地域は高齢者が多いのです。情報収集するにあたっては、テレビへの依存度が圧倒的に高いはず。スマホやPCでSNSを見たり、ググったりという世代ではないのです。

NHKがネットで情報を流そうが、radikoのアプリでラジオが聴けようが、たいして役に立たないのです。地上波が受信できない状態は、どれほど不便で心細かったことでしょう。停波が解消されてひとまずよかったな、と思いました。

ただ、中継局のエリア図にあるように、地上波がすべてカバーしているわけではありません。

山際などは電波が入りにくい「難視聴エリア」なので、ケーブルテレビが普及しています。地震の影響でケーブル線の断絶や電柱の倒壊があちこちで発生していて、まだ復旧のめどが立っていません。輪島市では数千世帯で停電も起こっています。

雪が降りしきる中、高所作業車で復旧作業にあたる人たち。県外からの業者も多くいます。※音量注意


孤立状態が解消した後も、課題が山積しています。輪島市町野町の若桑地区を紹介している記事を見つけました。

これから集落をどうするのか、住民の皆さんで話し合ったそうです。残る人あり去る人あり、いずれにしても苦渋の選択をせざるを得ない状況。愛着のある土地を離れたい人なんていません。

それなのにネット上では、被災者の人たちに向かって、安全圏から石を投げるような言葉が見られました。「能登半島に税金を投入して意味があるのか」「過疎地は捨て置け」など、人の心を持っているのかと疑ってしまいます。

困っている人がいたら、自分に何ができるわけじゃなくても、少しは心を寄せようとは思わないのでしょうか? こんな時に経済的合理性を声高に説いて、いったい何になるというのか。

私が町野町に関心を持ったのは、放送設備の被災状況を調べたのがきっかけでした。関連情報を毎日追っかけているうちに、この地域が復旧から取り残されているのが気になるようになったのです。

結局、被災地の地上波中継局のなかで、停波から脱するのが一番おそかったんですよね。毎日、総務省のリリースを見ながらやきもきしていました。
たぶんこれからも気になって、町野町を見続けてしまうのではないかという気がしています。




©hamuta 2024 All Rights Reserved
当記事のSNS等でのご紹介は歓迎いたしますが、転載、複製、改変等は禁止です。引用する場合は、引用元を明記してください。



よろしければサポートをお願いいたします。いただいたサポートは書籍購入や情報収集など、よりよい記事を書くための活動費に使わせていただきます!😊