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エッセイ『ちえ胡椒』

智恵子は東京に空が無いといふ、
ほんとの空が見たいといふ。
私は驚いて空を見る。
桜若葉の間に在るのは、
切つても切れない
むかしなじみのきれいな空だ。
どんよりけむる地平のぼかしは
うすもも色の朝のしめりだ。
智恵子は遠くを見ながら言ふ。
阿多多羅山の山の上に
毎日出てゐる青い空が
智恵子のほんとの空だといふ。
あどけない空の話である。

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亜希子は白米に文字を書いたといふ、
謎を解いてほしいといふ。
私は驚いて食べてみる。
白い米の上に在るのは、
苦くて辛い
むかしなじみのキレのある味だ。
薄くて見にくい白米の上の文字は
こげ茶と黒とクリーム色まじりだ。
亜希子は遠くを見ながら言ふ。
大文字山の山の上に
毎日出てゐる青い空が
亜希子のほんとの空だといふ。
胡椒で「ちえ」と書いているのである。

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 我が家のダジャレ弁当がテレビなどで紹介されまくった頃、まだ「バズる」という言葉はありませんでした。それのために身を削り、ネタを消費するような文化もまだなかったように思う。いまは炎上案件にしろ、スキャンダルにしろ、訃報にしろ、一ヶ月もすれば忘れ去られてしまう忙しない世の中ですが、ほんの十年ほど前には、こんな一般家庭のダジャレ弁当の話題が一年くらいは話題になっていたんです。
 当時のブログは一日七十万アクセスなんてこともあったし、月曜から夜ふかしにも取り上げられたし、ズームインの辻岡アナウンサーが我が家に来たし、大晦日には紅白歌合戦の前の番組で玉木宏さんに我が家の弁当を食べてもらったりもしました。あの頃と比べても、いまは余裕がなくなってきましたよね。まだほんの十年ほどなんですけどね。時代が変わっていることを実感します。

 白米の上に胡椒でちえと描いて「ちえ胡椒」。これ、けっこう気に入ってるんですよね。亜希子は妻の名前です。

白米の上に胡椒というのもなかなか。

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