しみじみ飲めばしみじみと
新聞各紙一面コラムを読むのを趣味にしております。主に読売新聞「編集手帳」朝日新聞「天声人語」毎日新聞「余録」日経新聞「春秋」産経新聞「産経抄」京都新聞「凡語」を毎日チェックしているんですが、全紙が同じことを題材にしていることって年に一度あるかないかくらいなんです。すごく珍しいことなんですが。
1月11日の「編集手帳」で八代亜紀さんは少女の頃、自分のハスキーな声を「嫌だな嫌だな」と思っていたことを知りました。それでも故郷熊本のキャバレーで歌い出すと客が立ち上がり、ダンスを始めたとき、「私っていい声なんだ」と自信が持てたそうです。そのときの客たちも、まさか自分が八代亜紀に自信を与えていたとは思うまい。そうやって誰もが誰かに知らずうちに影響を与えているのだ。
同日の「凡語」では「演歌の女王」と呼ばれた八代亜紀の原点がジャズだったことを知る。12歳の頃、父親が買ってきたジュリー・ロンドンのアルバムを聴き、自分と同じ低音のハスキーボイスに勇気づけられたらしい。
ジュリー・ロンドン好きやけど、八代亜紀との共通点は見出せなかった。今度改めて聴いてみようと思いました。
私は観てないんですが、映画『駅 STATION』では八代亜紀の「舟唄」が劇中で三度も流れるらしい。同日の「天声人語」と「余録」に同じことが書いてありました。居酒屋の店主役の倍賞千恵子が警察官役の高倉健に「この歌好きなのよ」と語りかけるらしい。哀切に満ちた声で八代亜紀が「舟唄」を歌わなければこの映画は成り立たなかったとは「天声人語」。
「世の中には悲しい女が大勢いる。あなたの歌声を、そんな女性たちに聴かせたい」と、歌の仕事がしたいと願う八代亜紀を支えたのは銀座のクラブの女性たち。同業者にも支えられていたのだと「産経抄」で知る。もちろん、同業者を支えてもいたのだと思う。
「春秋」には、女性刑務所で聴きたい歌手の希望をとると、多くあがるのが八代亜紀の名だったとある。それで始めた慰問公演は数十年。東北を大津波が襲ったときも、故郷が激震に揺れたときも、被災地に駆けつけ歌で励ましていたそうだ。
海のない新宿のど真ん中で、宝焼酎の緑茶割りを、ポテトチップスを肴に呑むという、舟唄とはかけ離れた世界観に身を置く私でさえ、いま、こうして各紙一面コラムを読んで、泣きそうになっている。しみじみ飲めばしみじみと。
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