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禁酒二日目

 禁酒二日目、ようやく軌道に乗り始め、このまま惰性で続けられそうだと思っていた矢先、職場で缶ビールをいただいてしまった。好きでしょ?とばかりに「みんなは一缶だけど、二缶にしておいてあげる、内緒だよ」などと言われ、「いま禁酒してますねん」と答えることは俺にはできない。甘んじて受け取るしかない。
 しかし、この二缶を呑んでしまうことで俺は禁酒の軌道から外れることになり、また禁酒を敷設するところから始めなければならない。もう既に一缶ではなく、二缶呑むつもりになってしまっている俺であるから、こんなもの、家に持って帰ってしまったら呑まずにはいられないのだ。
 そうなると、なんとかして、持って帰ってしまう前にこいつを紛失してしまえないか、と考える。例えば、自転車のカゴに置きっぱなしにしておいた隙にドランカーに盗ませるとか。駐輪場のカゴに放置しておけば、盗りやがるだろうというおっさんを俺は何人か知っている。京都はそこまで治安のいい街ではない。プレミアムモルツ二缶なら十分もせず無くなるだろう。
 あるいは、そんなどこの馬の骨ともわからない盗人に進呈するくらいなら、友人知人の類に差し上げてもよいのだが、仮に俺が差し上げたことを、俺に差し上げた方が知ってしまった場合の気まずさがある。あの人、わたしの差し上げた缶ビール、そのまま他人に差し上げるなんて失礼しちゃう、と怒らせてしまいかねない。京都はびっくりするくらい狭いから、俺が差し上げた人が俺に差し上げた人と繋がっていないとはいえない。むしろ、繋がっていると考えるのが自然である。かつて、うんこの落書きをした二千円札を家の近所のコンビニで使ったら、三日後に職場の近くのコンビニで、同じお札がお釣りになって返ってきたことがあった。京都は狭いのだ。
 おもいきって「棄てる」という手段もあるが、さすがにそれはもったいない。俺の体内を経由して尿として放出されるか、このまま缶ごと廃棄されるか、微々たる差しかない気もするが、その微々たる差を放ったらかしにすることが、昨今の温暖化や高齢化、円安その他、あらゆる問題の種になっているのかもしれない。

 あらゆる可能性を一つずつ潰していったが、やはり、どの選択肢にもどうしても無理が生じてしまう。俺は缶ビールを二缶、飲み干す運命にあるようだ。どうせなら帰りに酒屋に寄って、どこのブランドかよくわからない度数高めの焼酎を買って帰ろう。大きいほどお得だから5リットルのやつを買って帰ろう。

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