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短編小説『平松山』

 ええのー。ええのー。
 灼熱の京都、昨年山鉾巡行に復帰した三条通り室町西入ルに聳える鷹山の真木を平松は眺めている。何がええのか聞いてみると、鷹山みたいに金儲けがしたいなどと罰当たりなことを宣う。平松は鷹山が目新しさで耳目を集め、手拭いや扇子などで稼いでいるのが羨ましくてならないらしい。こういう勉強不足のアホには教えてやらなければならないことが山ほどあるが、いかんせん、俺にもそんな暇はないから言わせておくのだが、不思議なもので、こういうアホは意見しなければそれを肯定と捉える節があり、既に平松の友人界隈では俺も鷹山を羨ましがっていることになっている。
 どうして鷹山だけ荒稼ぎできて自分はできないのか、人間は生まれながらにして平等なのではないか、世の中に対し怒り心頭に発した平松は、自身の住む堀川三条に平松山を立ち上げることに決めた。アホもそこまで突き抜けると、鷹山のあの真木並みに見上げたものだ。俺は平松の計画に乗ってやることにした。
 まず歴史を改竄するところから始めなければならない。鷹山にあり、平松に無いのは歴史である。最近は技術の発達により古文書の解析が進んでいる。ということはその解析を逆手にとる手法も発達しているに違いない。歴史の改竄なら何人か前の首相も得意だったではないか。気の遠くなるほど根気のいる作業だが、これを成し遂げれば、早ければ十年後には平松山を「復帰」させられるかもしれない。俺はまず手始めに、ウィキペディアに平松山の歴史のページを作るべく、平松に初稿執筆を頼んだのだが、平松が浮かない顔をしているので、どないしたんやと尋ねてみたら、「普通に働いとるほうが楽や」と言ってきた。
 計画通り、平松は会社員に「復帰」した。コロナ禍で疲弊し、働く意義を見出せず呆けていく若者たちにお困りの企業の皆さん、社員のモチベーションアップなら是非、ワ・クイック事務所にご用命ください。

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