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読書の記録 斜線堂有紀『楽園とは探偵の不在なり』

 月約2回の東京旅のお供に毎回、小説を持っていきます。今回は斜線堂有紀『楽園とは探偵の不在なり』。去年のいつからか忘れましたが、SFマガジン(隔月発売)を読むようになり、最初に買ったSFマガジンに斜線堂有紀さんの短編が載っていて、これがめちゃくちゃ面白く、それとは別で以前、窪美澄さんの『ふがいない僕は空を見た』の後書きで誰か忘れましたが「この作家をリアルタイムで追いかけていける幸せ」というようなことを書いておられ、まぁ、つまり、斜線堂有紀さんは私にとって、リアルタイムで追いかけていける幸せを感じる作家さんとなったわけです。

 SFマガジンにその後も短編が掲載されており、それも読みましたし、伴名練さんが編集した『新しい世界を生きるための14のSF』っていうアンソロジーにも斜線堂さんの作品が掲載されておりまして、それも読んでやっぱり面白いな〜と感心しておりましたところ、こちら『楽園とは探偵の不在なり』が文庫で発売されまして、これを買わずして「リアルタイムで追いかける」と言えようか!いずくんぞ言えんや!?豈!?というわけで購入。今回の東京旅にて、晴れて読了した次第でございます。

 表紙は不気味な暗い夕暮れのような空の下、古い洋館があり、空には気味の悪い翼の生えた鳥のような人間のような生き物が飛んでおります。小説の世界観が実に巧みに表現されております。というのは読み終えてわかったことの一つです。読んでいない人がいるのにあまり作品の内容を話しすぎるのは下品だと思いますが、この洋館があるのは、ある孤島でして、孤島+洋館といえば、『金田一少年の事件簿』にも登場しましたよね、オペラ座の殺人!アガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』もそうじゃなかったかしら。探偵が活躍するのにお誂え向きでございます。『楽園とは探偵の不在なり』っていうタイトルからもわかる通り、ミステリー小説なんですが、作中には天使が出てきます。表紙で空を飛んでいる気持ち悪い生き物がその天使なんですが、この天使が大量に「降臨」している世界が舞台で、天使たちは、二人殺した人間を、問答無用で地獄へ堕としてしまうんですね。どんな理由であっても、仮に殺意がなくやむなく殺した場合でも、とにかく、直接、殺した人間が天使によって地獄へ堕とされます。

 二人殺せば地獄行き。ということは、連続殺人は起こらないはず・・なんですが、孤島の洋館では次々に・・。この「しばり」が実に面白い!さらに、この天使の出現によって人の倫理観にも変化が起こります。二人殺せば地獄行きなら、一人までならいいんじゃないのか、あるいは二人殺してしまったら地獄行きなら何人殺してもいいんじゃないのか・・・
 あまりにも我々の生きる世界とギャップがありすぎるんですが、しかし、いっぽうで我々は、我々の生きる世界の常識なんてちょっとした感染症の拡大くらいのことで容易くひっくり返ることも知っています。そりゃあ、そんな気味の悪い天使が出てくれば、人の倫理観なんてぶっ飛びますよね。
 しかも、この天使は二人殺した人を容赦なく地獄へ堕とすわけですから、探偵が謎を解明する必要もなくなります。だって二人殺した時点でその人は謎解きなどせずとも地獄へ行ってしまうんですから。それじゃあ探偵って何のために存在するのよ?そうして探偵の存在意義について一人煩悶する主人公の姿も、新たな探偵像なんじゃないかしら。いやー、しかし、面白かったなー。斜線堂有紀さんのこと、これからも追いかけていきたいなー。

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#斜線堂有紀 #楽園とは探偵の不在なり

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