歴代ベストナイン

　例えば、「プロ野球歴代最強ベストナイン」を作るとする。私は広島カープの前田智徳が大好きだったので、外野手三人のうちの一人にどうしても入れたいと思うが、この私の思い入れのために一人、誰かが外されてしまうことになる。外野手ならパッと頭に思い浮かぶだけでも、まず、メジャーリーグでも大活躍したイチローがいる。プロ野球通算安打数の大記録をもつ張本勲がいるし、世界の盗塁王、福本豊もいる。ミスター赤ヘルこと山本浩二もいるし、鉄人金本知憲もいる。通算記録で明らかに前田よりも凄い記録を打ち立てている人たちがこんなにいるのに自分の好みを押し通して前田を選んでもいいのかどうか。
　じゃあ、指名打者を前田にしようか、という手もあるが、一度もパ・リーグに在籍したことのない前田を指名打者にして、中年の星門田博光を外すわけにもいかない。そうやって僕は泣く泣く前田智徳をベストナインメンバーから外すことになるわけだが、涙に濡れながらも「いやいや、それが公共というもんやで」とも思う。仮にゴリ押しで前田を選んだとしても、自分の中にもやもやしたものが残ってしまうし、ゴリ押しで選ばれた前田も「ほんまにわしでええんかの」と恐縮してしまうに違いない。
　ゴリ押しをした私に残るもやもやと、ゴリ押しで選ばれた前田の恐縮。今、この二つの感情が置き去りにされているような気がしてならない。どう考えても力不足なのに血筋ゆえに大役を息子に任せる親父、任される息子はそれを恥とも思わず、我がもの顔で闊歩する、挙句の果てにはヨーロッパで嬉しがってお土産を買って回るというような。
　少しプロ野球歴代ベストナインを作ってみるだけでも、公共について学べるはずなんやけど。ただ、そんな私もどうしても前田を入れたいがために「９０年代ベストナイン」を作ってみたり、都合のいいルール変更はやってしまうから、あんまり人のことを言えなかったりするんだけれど。

蠱惑暇
こわくいとま

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