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サザンで短編小説『お願いDJ』

 ゆき姉、こんばんは!壬生のサリンジャーです。4月からの新番組楽しみにしてました。深夜枠の生放送ってここ何年かエフエム京極では無かったので、ゆき姉が担当されると知ったときは小躍りしましたよ。お知らせがあったときにアバのダンシングクイーンが流れたのもよかったです。あ、番組のツイッターアカウントもさっそくフォローしました笑

リクエスト:ポリス「Every Breath You Take」

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 遠山ゆきえは僕が十年来、追いかけているラジオDJだ。毎年3月の改編時期になると次年度も枠はあるのかと不安になってしまうことを申し訳ないと思っている。ゆきえは(普段はゆきえと呼んでいる)実際、喋り方が拙いし、ツイッターのフォロワーも250人くらいしかいないし、企業のお知らせを読むときも平気で企業名を間違えたりするし、僕が局の人間なら毎年戦力外リストに入れていると思うが、それでもゆきえは毎年改編を乗り越えて僕に声を届けてくれる。ゆきえは京都生まれ京都在住で、エフエム京極のDJでは特殊な部類に入るのも彼女が重宝される理由だとは思う。いや、別に重宝はされていないけど。

 でも何より僕はゆきえの声が好きだ。雲一つない青空みたいな声。虹の向こうまで届きそうな芯のある声。あの声のおかげで僕は失恋も受験失敗も乗り越えられた。二日酔いも治ってしまう。僕はゆきえの声が好きなんだ。正直なところ、ゆきえが喋るときはBGMも要らない。アウトロの曲紹介で尺に収まりきらず喋り続けたため、こぼれてしまった素のゆきえは息継ぎさえも美しかった。ラジコのタイムフリーで僕はゆきえの声を聴き続けている。

 喋りの拙さもリスナーからのメッセージに真摯に答えようとしているときに顕著であり、それは寧ろ美点であると僕は思っている。BGMに揺れながらリズムよく小気味よく話すDJもいるけれど、魂がこもっていないように感じることがある。僕はゆきえの声が好きだ。ゆきえの拙いDJが好きだ。エフエム京極の偉い人もひょっとしたら僕と同じ理由でゆきえを起用し続けているのかもしれない。そうだとしたら僕は嬉しい。でも、でも、もしかして、そうではない特別な事情があってゆきえが使われているのだとしたら。そうだからこそ、深夜枠の新番組のDJができるのだとしたら!僕はそのことを考えると頭がおかしくなってしまう。ゆきえの声を、僕の知らない、知り得ないゆきえの特別な声を独占している人がいるのかもしれないと思うと僕は殆ど狂ったようになってしまう。そのくらい、僕はゆきえが好きで好きでたまらない。でもそれを知らせたところで疎まれるだけだろう。だからメッセージは務めて抑制的な内容にしている。でも、でも、ごめんなさい。深夜の生放送が終わる頃、あなたがエレベーターから降りる姿だけは、いつも見つめていさせてほしい。どうか一人で降りてきてほしい。お願いDJ

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