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駅前に書店がある町 JR高円寺駅前

 駅前に書店のある町が好きだ。
 いまから一年半ほど前、仕事で定期的に東京へ行くことになり、その際、最初に宿泊させてもらったのが高円寺駅前のホテルだった。
 高円寺はその昔、バンドをやっていた頃、よくライブをした思い出の場所でもある。古着屋が多く、町全体にそこはかとないサブカルの匂いがし、世の中からあぶれた人たちの最後の砦といった雰囲気のある、大変に居心地のいい町である。売れないバンドマンや演劇人、お笑い芸人、作家の卵なんかが暮らしているという勝手なイメージはあながち間違いでもないらしい。

 文禄堂は高円寺駅の改札を出て左折した側にある書店で、私は高円寺を訪れるたびにどうしても立ち寄ってしまう。駅から少し離れたところには蟹ブックスという書店もあり、こちらは、行きたいがために高円寺駅に降り立つ書店であるが、文禄堂は目当てで高円寺に来るわけではないのだが、なぜか必ず入店してしまう不思議な磁力のある店である。
 自動扉を開け、入ってすぐのところにアウトレット本ばかり並ぶ棚があり、私なんぞはどこがどうアウトレット品なのか、全くわからないのだが、何かしらの瑕疵があるらしい新品の本がなんと半額で売られているのである。しかも、その品揃えがなかなか面白く、他ではなかなかお見かけしないような本もあり、眺めるだけでも楽しめる。なんというか、ひょっとするとあの本棚に陳列されているのも、世の中からあぶれてしまった本たちなのかもしれない。
 そういう本たちが集まってきてしまうのが高円寺という町であり、文禄堂という書店なのだろう。あの本棚を眺めている時間、私はいつもわくわくしている。蟹ブックスを目当てに高円寺駅に降り立つと言いながら、なんだ、やっぱり私は、文禄堂のあの本棚の前に立つためにこの町にやってきているのではないか。

 白い長髪をなびかせた革ジャン姿の三人組が駅前の喫煙所の隣で談笑している。

文禄堂のブックカバー

#note日記 #コラム #エッセイ
#蠱惑暇 #こわくいとま
#高円寺 #文禄堂

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