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1人目の客になれた話 祇園梛神社隣編

 趣味はオープンしたお店の1人目の客になることです。
 昨日今日と京都の千本釈迦堂というお寺で大根焚きが行われています。お釈迦様が悟りを開いた12月8日を祝う成道会にちなんだ行事で、鎌倉時代に大根の切り口に梵字を書いてお供えしたのが始まりなんだそうです。寒空の下で食べるあつあつの大根は格別の味わいらしい。1杯1000円の大根焚きを参拝者の皆さんは無病息災を願いながらほおばっていたという新聞記事を読み、毎年のことながら「高いな」という感想を抱き、同じ寒空の下、私は本日、四条坊城あたりにオープンするお店へ向かい歩きはじめました。
 壬生寺の近く、祇園梛神社という、うちの子がお食い初めをした神社のすぐ隣にオープンするお店です。ここには以前、カフェがあって、そのカフェの1人目の客も私だったんですが、残念ながら閉店してしまいました。1人目の客になったお店には繁盛してもらい、「あの男が1人目の客になった店は栄える」という伝説の一つでも作りたいと思っている私としては、非常に残念なのですが、これは仕方のないことなのだ。今日オープンするお店には長く営業してほしい、と、まだ1人目の客になってもいないうちから願っているのです。

 四条大宮の交差点を渡ったのがちょうどオープン40分前。超人気ラーメン店京都初出店!なんかだと40分前に到着していないと1人目の客になれないことが多いので少し焦り、早歩きをする。すれ違う人たちがみんな私の胸元をチラ見する。「1人目の客」と書かれたTシャツは思っている以上に目立つ、というか、おかしいらしい。他人の視線というのは、こうもわかりやすいものなのか、自分も気をつけなければならないな、と思う。

 祇園梛神社の前に人だかりができており、これはまずい!先を越されたか!と思ったのですが、皆さん四条通りの側を向いている。
 お店の開店ではなく、「壬生寺道」の停留所でバスが来るのを待つ人たちでした。隣に今日オープンするお店があるというのに、これからどこへ行くのかしら。

 黒字で店名の書かれた黄色い暖簾の奥からスタッフのお姉さんが出てきたのが11時40分頃。
「お待たせしてごめんなさい!もう準備ができたんでどうぞお入りください〜」
 ものすごく感じのいい接客の鑑。世の中の接客業に携わる人みんなに知ってほしい感じのよさ。私レベルになると無理してるか自然体かはわかりますねん。自然体の接客って麗しい。

 こじんまりしたカウンターメインの店内、カウンターの中にはお料理担当とみられるお兄さんがおられ、比較的仏頂面に見えましたが、私を迎える顔は柔和です。カウンターには既に玉子焼きと里芋煮、香の物を配置したトレーが置かれてあります。
「どんな感じで注文したらええんですかね」
「お昼は定食1種類だけで、今日はお刺身定食なんです」
「そうなんですね」
「お昼2時以降は夜の部でそっちはもちろん単品いろいろあるんですけど」
 先日の京都新聞に酒井順子さんが書いていましたが、いまの若い子たちは食べ放題の立食パーティに参加しても「誰も食べなかった料理は廃棄されてしまうんだと思うと楽しめない」とか言うそうです。そういう感覚が当たり前になってきました。世界は真っ当な方向へ舵を切っております。お店のお二人はきっとそういう世界に住んでおられる。私はとても清々しい思いがしました。
 トレーに白ごはんとお刺身盛り合わせ、お味噌汁が配置され、お刺身定食の完成。接客の鑑さんに写真を撮っていただき、一品ごとに味わいながら、お料理担当さんに話を聞くと、二人は夫婦らしい。最近結婚したそうですが、普段から息の合ったご夫婦なんだろうと思わせる空気が流れておりました。
 お料理担当の夫さんいわく、食材はどんなものでもその日のうちに美味しくいただいてしまいたい。お肉でも和食でもイタリアンでも、美味しいものをその日のうちに食べてもらいたい。そんな思いも込めて「肉和タリ庵」という店名を付けたそうです。
 定休日は水曜日。「休まんと疲れますわ」と笑う夫さん。この飾らない、気取らないのが当世風で心地よい。うちの息子も「24時間戦えますか」のリゲインのCMソングを聞かせたら「狂ってるな」と言っていました。疲れたら休む、ガツガツしない、「ひき肉です」より流行ってほしいライフスタイル。

 令和5年12月8日、祇園梛神社隣にオープンした「肉和タリ庵」の1人目の客は私です。
 


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