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新宿ハイク

 先日、何を検索していたか忘れたのですが、検索をかけていたらたまたま新宿に俳句文學館
なる施設があることを知りました。俳句をはじめて一年余り。はからずもこういう施設の存在を知ったからには行かねばなるまい。東京出張の際、宿泊させてもらっている宿も新宿にある。

 宿は午前10時チェックアウトです。チェックアウト直前はエレベーターが混雑するのでいつも9時過ぎには出発しております。グーグルマップで俳句文學館を調べてみると、ちょっと歩くけど、まあまあ徒歩圏内。だって同じ新宿だもの。JR新宿駅とは逆方向で、こちらは私にとって未開の地です。知らない街を歩くのは楽しいけど、知らない街の知らないお店に入るのは緊張します。いくつも恋して順序も覚えてキスも上手くなりましたが、知らない街の知らないお店に入るのはいつも震えます。故に、空腹の私は途中で見つけた富士そばに入り、いつものミニカツ丼セットをいただきました。富士そば最高。

 富士そばでそばをずるずるいきながら、俳句文學館のことを調べてみると、午前10時開館と書いてある。今日オープンする施設ではありませんが、これはひょっとしたら今日の「1人目の客」になれるのではないか、と考えた私は、そんなこともあろうかと東京出張に連れてきていた「1人目の客Tシャツ」を富士そば店内で着てから店を出ました。

 JRだか西武だかわかりませんが高架をくぐり抜け、ジグザグに道を歩いていると、なんとも押し出しの弱い、というか、実に控えめな「俳句文學館」が見つかりました。入口に達筆なフォントで小さく目立たない感じで「俳句文學館」と書いてある。入口の貼り紙に6月は展示替えのため展示室は休みです、と書いてある。5月末まで高浜虚子の展示をやっていたらしい。どうですか、このタイミングの悪さ。

 午前10時と同時に入館する。どうやら私が1人目の客らしいのですが、受付には誰もいない。受付と地続きの学校の職員室みたいな部屋で教員みたいなスタッフの皆さんが雑談しておられます。この雰囲気、入りにくいなー。俳句そのものの入りにくさもこんなだったような気がする。

 いくぶん、「1人目の客Tシャツ」を前面に出しつつ、「すみません、受付はここですか」と部屋へ向けて声をかけてみると、いちばん近くにいた女性が二階が図書室で三階が展示室なんだが今月は展示がお休みだということを教えてくださった。全部知っていたことだったけど、初めて聞いた風に聞いておきました。
 二階の図書室でもスタッフの方に「1人目の客Tシャツ」を見せつつ話を聞きましたが、やはりなんのリアクションもない。おそらくそれは、例えば私が女性がはめている指輪のことをまったく気づかないのと同じことなんだろうと思います。見えているけど見ていないのです。

 令和6年6月3日の俳句文學館の1人目の客は私です。図書室に入ってみたものの、俳句関連の書籍ばかりあり、一年余り俳句を作り続けていますけど、この俳句書の海は私にはまだまだ早いと思ってしまった。ここにいては溺れてしまう。もう少し泳ぎ方を覚えてから来なければならない場所だった。
 とりあえず、『角川俳句』6月号を読んでるふりしてこの文章を書き上げました。

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俳句もたしなむ知識人涌井です。趣味はオープンしたお店の1人目の客になること。そんな趣味について綴った著書『1人目の客』と、俳句文學館の方にはまったく気づいてもらえなかった1人目の客Tシャツはウェブショップ「暇書房」にて販売中❤️

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