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読書の記録 小松左京『日本アパッチ族』

憲法改正により死刑が廃止された日本。しかし、時を同じくして失業も罪となり、失業罪により木田福一は大阪の、廃墟の追放地に閉じ込められてしまう。ここには食料も水もないので閉じ込められたが最後、数日で人は死を迎えてしまう。

死刑は廃止されたけど結局同じことやないけ!っていうのは現実にもよくある話です。この後、木田福一は鉄を食べるアパッチ族になり、生き延びる、という荒唐無稽な話にもかかわらず、全編通して権力側の人間の思考回路の滑稽さ、狡猾さ、汚さ、愚かさが描写されています。

昭和46年初版発行と書いてあるので、いまから50年以上前に書かれた作品ですが、その権力側の漂わせる腐臭は今となんら変わらない。人間が鉄を食べることによりアパッチ族に変化してしまうことよりも、そっちのほうが怖いということを思い知らされました。

高度経済成長期で、戦後からの復興が遂げられたとはいえ、まだまだ戦争の記憶が色濃い時代に書かれたもので、戦争に対する反省、二度とあってはならないという強い思いがあってこそ、日本国軍とアパッチ族の全面戦争を書いたのだと思うんですが、日本国軍がアパッチ族を侮り緒戦で苦戦を強いられたがために戦線が泥沼化していくところなど、現代にも似たような愚かな史実があったばかりであり、また、それが今なお継続していることがただただ悲しい。こんな鉄を主食にするアパッチ族なんぞの話を読んで現実世界を憂うことになるとは思いもしませんでした。

完全なるマイノリティであるアパッチ族に対する政府の態度なんかは、現代社会における性的少数者や女性、外国人に対する政府のそれと共通している部分もあり、なにもかも現代の問題と結びつける必要はないですが、読みながらどうしても私はロシアのウクライナ侵攻だったり、改正入管法のことだったり、ジェンダーの問題だったり、そういうことについて考えずにはいられない作品でしたね。

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