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#怪異

二つの世界の狭間で【怪談・怖い話】

これは、北陸のある町に住む山下君が体験した話だ。 山下君は高校三年生の時、ある女性のために東尋坊を訪れた。その女性とは、数年前に東尋坊から落ちて亡くなったクラスメートの沙織さんであった。彼は毎年、沙織さんの命日に東尋坊へ行き、彼女を弔っていた。そんなある日、山下君の母親から電話が入った。兄が植物状態からついに亡くなったという連絡だった。しかし、母親の声には悲しみの色はなく、冷たい口調で事務的に知らせてきた。 東尋坊の崖に立っていた山下君は、ショックと悲しみに暮れていた。そ

静寂の雪原に消えた工場【怪談・怖い話】

これは、ある派遣社員が体験した、奇妙で不気味な話である。 その派遣社員、佐藤さんが、ある冬の一ヶ月間、道東の山奥にある製材工場で働く仕事を紹介された。仕事はフォークリフトで製材の積み込みをするという内容だった。泊まり込みで三食付き、広い風呂に個室のテレビも完備と、好条件だったため、佐藤さんは快諾した。 工場に着いた佐藤さんは、工場長と二人の無口な作業員、そして飯場のおばちゃんの四人と一緒に過ごすことになった。三食の飯はおいしく、仕事は定時で終わり、広い風呂で疲れを癒し、夜

不成仏僧侶の怨念【怪談・怖い話】

長野県に住む村山さんから聞いた話。 村山さんがまだ小学校四年生の頃、霊体験が立て続けに起こったという。 その始まりは、叔父さんの突然の死だった。 村山さんの叔父さんは林業を営んでいたが、ある日、仲間が切った大木が顔に直撃して命を落とした。 奇妙なことに、村山さんはその前日に、その光景を夢で見ていた。 大騒ぎする仲間たち、叔父さんの血だらけの顔が膨れ上がる様子、そして救急車に運ばれる光景。まるで空中から全てを見下ろすような視点で、村山さんはその場にいたのだ。 目覚めたとき

建設会社の社員寮【怪談・怖い話】

千葉県に住む染谷さんから聞いた話。 染谷さんが大学時代、工事現場で日雇いアルバイトをしていた時のことだ。その現場監督、工藤さんから聞いた話が今でも忘れられないという。 工藤さんがまだ新人で入社したばかりの頃、彼は会社の社員寮に入った。その部屋は四畳半の一人部屋で、長い間空室だったという。工藤さんが長く寮に暮らしている先輩に聞いたところ、その部屋には以前、板橋さんという社員が住んでいたが、奇妙な理由で退社したと聞かされた。 その理由とは、前夜に大雪が降った朝、なかなか起き

樹海を走るタクシー【稲川淳二オマージュ】

私、毎年夏になると、怖い映画作っているんですよ。 場所もだいたい決まっているんですけど、富士の青木ガ原の樹海ってあるじゃないですか、そこが多いですね。樹海の中に民宿があって、その近くで、深夜撮影をするんですよ。樹海というのは、夜になると、真の闇ですよね。照明のあたるところはいいですけど、一歩明かりの外に出ると、まったくの闇で、何も見えないですよ。 ストロボ点けて写真撮ると、人物は写るけど、後ろの樹木は写らないですよね。そういう場所ですよ。そんな状況の中、撮ってて、一息入れ

かなえられた願い/犬木加奈子【怪談・怖い話】

信心深い老婆がいた。彼女は広い家に住み、暮らしに十分なお金はあったが、家族はなく孤独な生活をしていた。 隣家の親切な婦人がたまにお茶に誘ってくれるものの、幸せそうな家族を見るのは辛かった。老婆が真に望んだのは、貧しくとも親しい友人や家族に囲まれた生活だった。 ある晩、老婆はふと過去の記憶に思いを馳せた。 若い頃、彼女の夫は「大きな仕事がある」と言い、出稼ぎに行ったきり帰らぬ人となった。事故で命を落としたのだ。 夫の死を嘆き悲しみながらも、彼女は残された二人の子供たちを立

キャンプ【稲川淳二オマージュ】

三十代の男性で、仮にAさんとしておきましょうか。 十数年前の高校の夏休みの事なんですが、Aさんが親友のB君と二人で、長野県の北部にある湖にキャンプに行った時の事です。 自分たちが住んでいる街から、キャンプ場までは40キロ程の距離なんですが、自転車に荷物を積んで、二人でキャンプ場へ向かったんですね。 途中途中で休みながら、どうにかキャンプ場に着いたんですが、その時にはもう既に夏の日がだいぶ西に傾いていたんですね。 ひょいと見ると、木々の向こうなんですが、赤いランプがくるんく

■若い町内会長【怪談・怖い話】

友人から聞いたヒトコワな話 十年前、立花さんは新婚生活をスタートさせるため、地方都市に念願のマイホームを建てた。夫の通勤時間は長くなったが、広い庭と静かな環境を求めての選択だった。新しい家は閑静な住宅街にあり、引っ越しの挨拶回りでは高齢者が多いことに気付いたが、隣の町内会長は若く親切な男性で、安心して新生活を始めることができた。 しかし、もう一方の隣人であるおばあちゃんが問題を引き起こした。彼女は自宅の塀に収まりきらない植木鉢を立花さんの家の塀にまで置き始め、猫がそれを倒

三つの目の墓標【怪談・怖い話】

友人から聞いた高校の生物を担当していた先生の話。 先生は某国立大学の出身で、その大学は山の中にあって、昔は軍の基地として使われていたらしい。今も地下通路が残っている。 その大学には「校内に三つの墓標があり、三つ目の墓標を見た者は死ぬ」という噂があった。先生が新入生の頃、友達とその噂の三つの墓標を探すことにした。 一つ目の墓標は増設工事中に作業用の足場から落ちて亡くなった人の場所。二つ目は地下通路を探検して酸欠で亡くなった人の場所。この二つは有名で、すぐに見つかった。しかし

自殺の名所【稲川淳二オマージュ】

昔から自殺の名所って呼ばれる場所ってありますよね。 華厳の滝だとか、富士の樹海だとか、錦ヶ浦だとか東尋坊だとかね…… これどこもみんな景色がいいんですよね。 それで、人が結構来る場所なんですよね。 神秘的な美しい景色の中、そこには秘められた神秘的な魔力のようなものがあって、自殺者を呼び寄せるんじゃないだろうかって話しもありますがね…… 例えば富士の樹海ですよね。青木ヶ原樹海。 ここは実際、時期がいいと非常に爽やかな場所なんですがねぇ。 松本清張さんの「波の塔」という小説で

ほっかむり地蔵【怪談・怖い話】

東北地方に住む小野寺さんから聞いた話。 小学校の頃、通学路に小さなほこらがあった。高さ四十センチほどの地蔵が四体並んでいたが、右端の地蔵だけ顔が布で隠されていた。 上級生からの噂では、その地蔵の顔を見た者に呪いがかかるため、顔が隠されているのだと言われていた。絶対にその地蔵の顔を見てはいけない、と話題になっていたのだ。 ほこらは小学生が簡単には登れないような高みのガケにあり、ほこらへの道も危険で不気味な雰囲気だったため、誰も近づこうとしなかった。しかし、ある日、同じクラ

病院の子供の声【稲川淳二オマージュ】

病院。 そこは一歩踏み込んでしまうと、元気に無事に帰ってくるか、またはそのまま二度と帰ってこないか……要するに、そこは生と死の境界線なんですね。 わたしのまだ若い頃の話です。わたしの姉の親友で、まあT子さんとしておきましょうかね。運動が万能な素敵な女性なんですが、わたしもこの方の家に何度か遊びに行った事があるんですよ。それで、このT子さんがスキーをしに行ったんですね。彼女は素晴らしくスキーが上手いんです。 ただ、その時に勢いが余って、段差のところに突っ込んで、結構な怪我

庚申池【怪談・怖い話】

これは、地方に住むSさんが小学校の頃に体験した話。 通学路から少し外れたところに「庚申池」という大きな農業用水池があった。当時住んでいたところは庚申池の先にあったので、帰り道に近道として池のほとりを通ることが多かった。 この近道は昼でも暗い竹やぶを抜け、赤土むき出しの切通しをくぐり、池の土手の未舗装の道を進むもので、人通りもなく不気味な雰囲気が漂っていた。だが、子供心にはその不気味さが逆に魅力でもあった。 五年生の秋口、学校で奇妙な噂が広まった。 日が暮れてからその近

最期の一枚【稲川淳二オマージュ】

富士の樹海近くで見つかった遺体 富士の樹海近くで民宿を経営している、仮にAさんとしておきます。 この人地元の消防団のメンバーなんですが、消防団で10月頃富士の樹海から遺体を収容しています。例年、だいたい30体前後が上がるそうです。 さて、秋も深まった頃、この消防団の仲間から電話が入って、「樹海で死体が見つかったからすぐに来てほしい」という電話をもらった。すでに消防や警察には連絡がいっているというので、Aさんは現場に駆けつけた。そこは以前にも男女三体ほどの遺体が上がっている