台湾の先進事例から考える、東京都のオープンイノベーション
東京都では、2021年度から「都知事杯オープンデータ・ハッカソン」を開催するなど、オープンデータを活用したデジタルサービスを官民共創により創出することで、都民の生活の質(QOL)向上を目指しています。
都知事杯オープンデータ・ハッカソンではこれまで、工事現場で働く人などの昼食難民とキッチンカーをマッチングする『PECO navi TOKYO』やライフスタイルや家族構成等の情報から住む街選びを支援する『上京物語』など、行政にはない視点でオリジナリティあふれるサービスが生まれてきました。
過去の都知事杯オープンデータ・ハッカソンに関する記事は以下をご覧ください。
年々盛り上がりを見せている都知事杯オープンデータ・ハッカソンですが、企画にあたっては、台湾の「総統杯ハッカソン」を参考にしています。これは台湾のデジタル担当大臣、オードリー・タン氏も積極的にコミットしているイベントで、2018年から毎年開催しています。
今回は、職員による台湾現地視察内容をご紹介するとともに、今後の東京都における官民共創及びデータ利活用の取組について考えていきます。
台湾の「総統杯ハッカソン」
最初に、台湾の先進的なオープンイノベーションの取組についてご紹介します。
「総統杯ハッカソン」は、オープンデータを活用して公共サービスの質を改善する提案を競うイベントです。海外からも参加することができ、これまでの4年間で世界34か国/地域から147チームが参加するなど、台湾の国際交流のプラットフォームにもなっています。
海外からの参加枠組みである「International Track」を設けた意図について、担当者の方は「台湾の国際的地位を向上させたい、台湾が国際的に活動しているということを示す機会としてハッカソンをとらえている」と話していました。ハッカソンを通して台湾をよりよくしたい、より国際的にしたい、という思いを感じました。
2023年のテーマは「Free the Future: Open, Digital & Green」
今年は過去最多の60件の提案があるなど、総統杯ハッカソンも年々盛り上がっているようです。最優秀賞として、以下の2つの提案が選ばれました。
ひとつ目の受賞はインド・台湾の合同チーム「HysonTech」による「FarmABetterFish(養殖自動システム)」。水中カメラやIoT経由で取得した水中のデータと、オープンデータを活用し、水中のリアルタイムモニタリングを可能としたシステムです。
二つ目はタイのチームによるプラスチック製ボトルの繰り返し利用を促進するアプリ「Re-fill City」。海外では大きな課題である、「飲料水」提供者(レストラン等)の場所がわかるアプリです。
「水をもらう人」はただで水が飲める、「水を提供する人」は行政からのポイントにより商品や減税が受けられて店の広報になる、「行政」はプラスチックごみ低減につながるなど、三者にメリットがあります。
受賞後には手厚いサポート
最優秀賞を受賞したアプリは、政府の中で担当部署を決めて実装までサポートする体制があり、政府の予算にも組み込まれます。また、例えば「養殖自動システム」では、台湾近海で実証するにあたり関係省庁の許可をとる必要がありましたが、サポートにより許可がおりるまでのスピードが速くなったそうです。
これらの政府全体での手厚いサポートが、参加者の高いモチベーションにつながっています。参加者のニーズにこたえたサポートの提供の重要性を感じました。
台北市役所でオープンデータ利活用のためにやっていること
台北(タイペイ)市ではオープンデータを活用し、データ主導型都市づくりの政策を促進する目的で、2020年7月に Taipei Urban Intelligence Center が設立されました。主な業務は、オープンデータ整備、オープンデータを利用した分野横断的な分析等です。また、電車内の混雑状況のデータやバスの運行データなど市民生活に近いデータをダッシュボードとして公表しています。
オープンデータの整備がかなり進んでいる印象がある台北市ですが、実際には各部署からデータを出してもらえなかったり、PDF形式で提出されたりということが起き、現在は担当者でデータクレンジングを行っているそうです。
これについては東京都も同じような場面に直面することがあり、庁内の各局や区市町村のオープンデータ担当者の協力を得ながら、なんとかオープンデータの公開促進を進めているところです。「地道なコミュニケーションを続けることで少しずつ他部署からの協力を引き出せる」とのお話に非常に親近感を感じました(笑)
g0v(ガブ・ゼロ)とvTaiwan(ブイタイワン)
g0v(ガブ・ゼロ)は、台湾の市民参加型シビックテックコミュニティであり、コロナ禍にオードリー・タン氏の呼びかけでマスクマップを作ったのもg0vです。
台湾では、その歴史的な背景から言論の自由が重要視されており、政府は政策についてインターネット上で討論できるような場を作りたいと考えていました。そこで、 g0v が政府の依頼を受け、市民参加型政策議論プラットフォームのvTaiwan(ブイタイワン)を構築したそうです。
vTaiwanの構築に携わった方のお話で非常に印象的だったのは、「参加している方々はとてもやさしく、国を思う人たちばかりで、本当に力になりたい、サポートしたいという思いが原動力になっている」という言葉でした。官民が連携してオープンイノベーションに取り組むためには、こういった温かい信頼関係をもとに、協力し合える関係を築いていかなければいけないと改めて感じました。
官民共創とデータ利活用のさらなる促進に向けて
ここまで台湾総統杯ハッカソンをはじめ様々な視察の結果をご紹介してきました。総統杯ハッカソン受賞者への手厚いサポートや市民生活に身近なデータのオープンデータ化・可視化など、様々な事例から多くの学びがありました。
3回目の開催となる2023年度の都知事杯オープンデータ・ハッカソンでは、サービス開発を目指す「社会実装部門」に加え、オープンデータの活用等に関するアイデアを幅広く募る「アイデア提案部門」を新たに設けるなど、参加の裾野を広げる試みを行いました。
一方で、参加者の方々からお寄せいただいたご意見・ご感想の中には、「都や区市町村など、自治体が抱える地域課題を提示してもらい、それに取り組んでみたい」、「現状のハッカソンは単年度の取り組みとなっているが、年度を超えてサービスが継続していけるような仕組みを検討してほしい」といったお声もいただいています。
今後、さらに多くの方にご参加いただき、ハッカソンから生まれるオープンイノベーションを一層促進するためには、改善すべき課題がまだまだあると痛感しています。オープンデータを最大限活用し、官民共創で新たなサービスを生み出し続けるため、今回の視察で得られた知見や、参加者の方々からのご意見等も取り込みながら、都知事杯オープンデータ・ハッカソンのバージョンアップを図っていきたいと思っています。
東京都では、これからも参加者の皆さんに「都知事杯オープンデータ・ハッカソンに参加してよかった!」と思っていただけるよう、引き続き、総統杯ハッカソンをはじめとする先進的な取組を進めている国内外自治体等との積極的な情報交換や成果の共有などを通じて、オープンイノベーションの実現を目指していきます。
ぜひ東京のオープンイノベーションの未来にご期待ください!