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【短編小説】願いを叶えるオルゴール

他サイトで応募した、イラストから小説を書くというお題の作品。結果出たので、そのまま投稿します。もちろん、落ちましたが。

タイトルはそのまま、見出し画像は、イラストそのまま掲載するわけにはいかなかったので、似たイメージのものを載せてます。内容は加筆修正してます。

取り敢えず熱は下がってきました。ご心配おかけしました。

今日も少女は、この場所から自分の住んでいる都市を眺める。

元々はビルだったところの隙間から、滝が流れている。ビルの内、住居として使われているのは、上部の数階くらい。それより下は水の中。
目を凝らしても、特に変わったところはない。

いつもと変わらない、水没してしまった都市の光景だ。

うた。」

呼ばれた声に振り返ると、浅黒い肌に、水に濡れた半そで短パンを着込んだ少年が手を振って、視線に答えた。
足元には重そうな防水袋が置いてある。
今日の戦利品なのだろう。

詩は、注意深く、今まで座っていたところから、ずりずりと隣のトタン屋根に体を移した。
詩の軽い体なら問題ないが、この場に重い荷物を持って立つのは到底できない。
そのまま体を起こすと、詩は危なげない足取りで、少年の隣に立つ。

「今日は何か見つかった?」

少年の言葉に、詩は首を横に振った。

「なにも。いつもと変わらない。そうは?」

爽は、詩の言葉に、少し胸をそらして、得意げな笑みを浮かべる。

「今日は、詩に見せたいものがある。」

「その袋の中にあるの?」

「いや、壊れものだと嫌だから。」

そう言って、爽は、身に着けていたリュックを下ろす。
その場に座り込んで、リュックの中を漁った後、布でくるまれた包みを取り出した。

「なにそれ?」

「よく見てみろよ。この布。」

詩は、まだびしょびしょに濡れたままの包みを受け取ると、遠巻きに視線を送る。
ただ、しばらく見つめた後、はっとしたように爽のことを見上げる。

「・・この布、見覚えがある。」

「やっぱり、それおばさんが持ってたスカーフっぽくない?」

「・・うん、すごく似てる。」

布には色が薄くなってはいたものの、いくつかの花のモチーフが描かれていた。
詩の母親が、「自分には派手ねぇ。」と言って、笑いながらも大切そうに持っていた、スカーフの絵柄にとても似ていた。

「どこで見つけたの?」

「今日、魚の網に引っかかってた。」

爽は、時間があると、漁師をしている父と兄の仕事を手伝っている。その合間に潜って、沈んだ都市から、金目になりそうなものをさらって、それを売り払って、小遣いにしている。

詩が、自分の家族を探しているのを知っていて、何か見つけると、詩の元へ持ってきてくれる。

この都市は約3年前、突然どこからか来た水に覆われ、一夜にして水没した。

人々は水の来ない高いところへ逃げたが、詩はその時、家族とはぐれ、一人になってしまった。
実際、都市にいた約半数の人は行方不明になっている。
多分、水に流されたのだろうとされる。だが、遺体は上がっていない。

詩は、家族の手掛かりを求め、都市内を探したが、いまだに何も見つかっていない。
お金がたまったら、それを持って、より遠くに足を伸ばそうと思っていた。

それまでは、仕事が終わったら、定位置であるこの場に来て、都市を眺めていることが多かった。
何か、変わったことがあれば、それが家族の手掛かりになるかもしれないからだ。

「詩。開けてみなよ。」

爽の言葉にこっくりと頷くと、詩は布の結び目に手を添える。
だが、かなり固く結ばれていて、開きそうもない。

「切るのは・・嫌だよな?」

詩はぶんぶんと首を縦に振る。せっかくのスカーフを切って、ボロボロにしたくない。

「ひとまず乾かしてみるか。」

詩はその包みを持ち上げて、軽く振ってみる。何も音はしなかった。


それから数日たったある日、うたそうは、詩の家で、包みを開けてみることにした。
乾かした包みは、スカーフの生地がよかったのか、するりと結び目をほどくことができた。

スカーフはかなり色あせていて、かなり長い間水につかっていたのだろうと思われた。
包みの中身は、紙のようなもので、何重にも包まれていた。

「この紙、何だろう?」

耐水紙たいすいしかな?」

「耐水紙?」

詩の問いに、爽は「簡単に言うと、水に強い紙ってこと。」と答える。

「たぶん、水につけることを想定して、こう包んだんだ。」

「あえて、この包みを流したってこと?」

「ボトルメールを想定したんじゃないかな。」

ボトルメールは、空き瓶に手紙を詰め、海に流し、名も知らない人宛に届くもの。もしかしたら、手紙も一緒に入ってるかもしれないと、詩はわくわくする。今までずっと探していた家族の手掛かりになるかもしれない。どうしても期待してしまう。

詩は、その紙を剥がしていく。中には小さな箱が入っている。箱は木でできているらしい。
耐水紙のおかげか、箱は濡れてもいないし、外側が腐っている様子もない。

「じゃあ、開けるよ。」

「うん。」

詩は唾を飲み込むと、箱のふたを開ける。
中には陶器製のウサギが入っていた。周りには緩衝材かんしょうざいが入っていて、このウサギが割れないよう守っていた。

「これ、オルゴールみたい。」

ウサギの座っている面には、金属製の円盤がついていた。
それを一定方向に何度か回すと、ウサギが回ると同時にオルゴールが鳴り出す。水にどれだけ長い期間浸かっていたか分からないのに、ちゃんと鳴ったことに驚く。そして、その曲に詩は聞き覚えがあった。

「この曲、『星に願いを』だっけ。」

「・・そう。」

詩は、そのウサギを見ながら、視界がぼやけていくのを感じた。

「私の好きな歌。」

「・・手紙でも入ってればよかったのにな。」

箱の中身を全て出してみたが、このオルゴール以外には何も入っていなかった。

「でも、もしこれを流したのが、お母さんなら、お母さんはどこかにいるってことだから。」

水没する前に、母がこれを準備して、部屋にしまっていたのが、流れて、たまたま網にかかったのかもしれない。そもそも、家族が詩宛に準備したものでもないのかもしれない。

ただ、ほんの僅かな期待、願いに、詩は縋りつくしかなかった。

「・・そうだな。」

オルゴールの奏でる音色が、部屋に響く。

爽は、詩にハンカチを差し出す。詩は黙ってそれを受け取った。

「いつか、おばさん達に会えるといいな。」

「・・爽も手伝ってくれる?」

「いいよ。最後まで付き合ってやる。」

詩が涙をぬぐって、その言葉に笑ってみせると、爽も照れた笑みでそれに答えた。

いつか、必ず会いに行くから、まっててね。

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