【短編小説】noteクリエイターチェッカー
最寄り駅の改札を出て、買い物でもして帰ろうかと、駅ビル内のスーパーに足を向けた時、後ろから呼び止められた。
躊躇いなく振り返った私が見留めたのは、肩辺りで切り揃えた髪を揺らした高校生らしき女の子だった。
「何かしら?」
「突然、話しかけてすみません。あの、noteクリエイターですよね?」
彼女の言葉に、私はとぼけた振りをして、「何の事」と呟いた。彼女はスーパーとは、反対方向のカフェを指差して、口を開く。
「もし、お時間良ければ、少しお話しませんか?」
「・・それほど、時間はとれないけど。」
そうは言いつつも、家に帰っても誰か待ってる人もいないのだから、全ては私次第でしかないのだが。ただ、なぜ私がnoteを書いていると分かったのか、それにはとても興味があった。
彼女は私が断るとは思っていなかったのだろう。嬉しそうに顔を緩めて、カフェの方に歩き出す。彼女の後ろ姿を見ながら、私も後を追う。
自分の家近くでは見ない制服だったから、多分電車通学の私立高校生なのだろう。自分の高校生時代はどうだったろう?こんなに可愛い制服を着ていなかったのは確かだ。高校生とまともに話をすることはできるんだろうか?子どもと話をする機会など、私にはとんとない。
カフェのレジ前で、彼女に注文内容を伺う。コーヒーは飲めないというので、オレンジジュースを頼んだ。私はアイスコーヒー。2人分のデニッシュも追加する。会計はもちろん私持ち。彼女は恐縮していたが、当たり前の事だと思う。
向かい合う席について、飲み物を口にして少し落ち着いた頃に、相手が口を開いた。
「私、noteクリエイターチェッカーを持ってるんです。」
「noteクリエイターチェッカー?」
聞いたことのないシロモノの名前が出てきた。彼女はごそごそと胸元をまさぐると、かなり大きめのペンダントトップを引き出した。
「ちょっと待ってください。一旦外すので。」
「・・無理しなくていいけど。」
「これだと、よく見えないので、説明が。」
彼女は、わたわたと慌てながら、ペンダントを何とか外し、私に向かって差し出した。
「触ってみてください。」
私は戸惑いながらも、そのペンダントを受け取る。手の中でペンダントトップが震えた。声をあげそうになって逆の手で口を押さえる。
「いろんな方法で、誰がnoteクリエイターかを教えてくれるんです。震えたり、光ったり、熱を持ったり。」
「・・それで、誰がnoteを書いているか分かるという訳?」
「そうです。仕組みはよく分かりませんが。」
私は手の中のペンダントをしげしげと眺めた。ペンダントトップの中で色が乱反射していた。今は熱は感じない。
「どうやって、これを手に入れたの?」
「・・noteでいろいろな投稿企画がありますよね?あれに当選すると、これももらえます。」
スマホのアプリと連動しているのだろうか?
私は彼女にそれを返す。彼女の言葉を頭の中で思い返して、つまり彼女はnoteの公式企画で当選したということに思い至る。
「あなたのクリエイター名は何?」
「よりぴょん、です。」
自分のフォロワーの中に、その名前があったような気がする。確か高校生だと言って、自由詩を主に投稿していたはずだ。公式企画は気になるものしかチェックしていないので、誰が当選したのかすべて把握はしていない。
「それで、よりぴょんさんは。」
「よりぴょんでいいです。できれば、クリエイター名教えてくれませんか?」
「・・アセスタ、だけど。」
「え。本当ですか?連載小説の次回作はいつ書かれますか?私、続きを楽しみにしてるんですけど。」
私のクリエイター名を明かしたら、思ったより私の創作物を読み込んでくれているようで、焦る。確かに、投稿する度にスキはくれる人だったが、ちゃんと読んでくれているとは思っていなかった。私は次回作については曖昧に答えて(まだ、まったく執筆は進んでいなかった)、話題を別のことに切り替える。
「よりぴょんは、実際にnoteクリエイターに会って、どうなの?」
「どうなのとは?」
「いや、こんなおばさんがあんな恋愛小説書いていて、がっかりしたとかないの?」
「嬉しいです。」
彼女は、私の質問に即答で返した。私が彼女の顔を見つめると、自分の言葉が本気だと証明するかのように、嬉しそうに笑う。
「私、自分の友達にはnoteやってること明かしてないし、詩を書いてることも言ってません。でも、そのことを話せる仲間?みたいなものは欲しかったんです。noteでもワークショップとか開催されてますけど、参加する勇気もないし、お金もかけられないからメンバーシップ登録もできないし。」
「まったく知らない人に、それがあったからといって、声をかけるのは勇気のあることだと思うけど。」
noteクリエイターチェッカーを指差しながら、告げた私の言葉に彼女は少し困ったような表情を浮かべた。
「実は他にも、これが反応する機会は何度かあったんですけど、結構男の人が多くて。後は他の人と一緒とかで、話しかけられなかったんです。アセスタさんは、話を聞いてくれそうと思って、思い切りました。」
「そう、がんばったね。」
「はい。話しかけて良かったです。あの・・私と友達になっていただけないでしょうか?」
彼女は私に向かって頭を下げた。私はすぐに答えを返せない。友達って、このようにお願いされてなるものなのだろうか?と変なことを考えてしまったからだ。
「もう、友達なんじゃないかな?」
「アセスタさん・・。」
「既にnote内でもやり取りしてるし、ただ実際に会ったというだけ。よりぴょんも私に会ったから、コメントとかも残しやすくなったんじゃない?」
「それは・・確かに。」
「SNSのアカウントとかも交換しとこうか?」
「是非。お願いします!」
ニコニコと笑う彼女を見ていると、それを見ている私の方まで嬉しくなった。まるで、高校生の時の自分を見ているかのようで。
終
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