【短編】紫陽花
毎日、毎日、雨ばかり。さすが梅雨だ。
普段家に閉じこもっている私には、外が晴れだろうと雨だろうと、あまり関係はないけれどね。
「たまには外に出かけようよ。」
「・・私、雨は嫌いなの。」
「前は太陽が嫌いって言ってなかった?」
「・・・。」
テレビに向かって、ゲームをしていた達樹は、隣に座って本を読んでいる私に向かって笑いかけた。
「もう、毎日毎日来なくてもいいよ。他にしたいこととかないの?」
「玲香と話せるのは楽しいよ。」
「じゃなくて。学校の友達とかもいるでしょ?塾とか行かなくてもいいの?」
「まぁ、友達とは学校で話せるし、家庭学習で何とかなってるし。」
私は今学校に行っていない。朝起きることができないのだ。
午前中は大抵調子が悪く、頭痛もしばしばで、学校に行かない分は、家庭学習で補っている。
達樹は、私の幼馴染で、私が学校に行けなくなってからは、放課後や休みの日には、私の家に来るようになった。
彼が何を考えてここに来ているのかは、わからない。
「近くの公園だったら、大丈夫じゃない?」
「・・怖いから嫌。」
「僕がついていくし。短時間で。今は紫陽花が綺麗らしいよ。」
「紫陽花。。」
「雨の日なら更に人はいないかも。」
「・・。」
彼にいろいろと提案され、私の気持ちがぐらつく。
「今日じゃなくてもいいけど。」
「考えとく。」
彼の顔を見ると、彼は私の視線を受けて、ニッコリと笑う。
やっぱり何を考えているか分からない。
私に関わって、何か得になることなんて何もないのに。
結局、私は達樹の『近くの公園に紫陽花を見に行く』という提案を受け入れられないまま、変わらない毎日を過ごしていると、彼は私の家に色とりどりの折り紙を持って現れた。
「何これ?」
「見ての通り、折り紙。」
「何で折り紙?」
「これ見て、これ。」
達樹は本を取り出して、その一箇所を開いて、私に向かって差し示す。
「立体紫陽花の作り方?」
「そう、なかなか公園に一緒に行ってくれないから、代わりに。」
「・・私を責めてる?」
「責めてないよ。行くのが怖い気持ちは僕にも分かるから。」
「?」
彼の顔を覗き込むと、彼は私を安心させるかのように笑みを浮かべる。
「何かあったの。達樹。」
「・・何もない。何も。さぁ、作ろう、紫陽花。」
達樹の様子が気になりながらも、本の一ページに目を落とす。
葉の代わりの土台を作り、それに別途作った花を貼っていくらしい。
「両面テープも持ってきた。」
「用意がいいね。」
しばらくお互い紫陽花を作るのに無言で手を動かした。
私が作ったのはピンク色の紫陽花、彼が作ったのは青い紫陽花だった。
初めて作ったから、共に所々拙いところがあるが、それでも綺麗に立体に仕上がった。
「折り紙なんて久しぶりだったけど、やってみると楽しいね。」
「気分転換にはなっただろ。」
彼は目の前の2つの紫陽花を見ながら、ぽつりと呟いた。
「・・学校には行きたくないんだ。本当は。」
「私と一緒に休む?」
「それもいいかも。だから、ここに来るなとは言わないで。」
私は目を瞬かせた。
「そんなこと一言も言ってないけど。」
「毎日来なくていいって言ったじゃないか。」
「・・それは、達樹が無理して私のところに来ていないか、心配しただけ。」
「僕は玲香と会うことで救われてるんだ。」
「私も達樹の力になれていたんだ。・・いつかは一緒に外に行こうね。」
「そうだね。その時は本当の紫陽花を見よう。」
彼は、今度は曇りのない笑みを見せた。私はその笑みに呼応して笑った。
終
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