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【短編】髪形を変えてみたら 古内視点/有森・古内シリーズその1

私の髪は、他の人に褒められるほど、健康な髪なのだそうだ。
色は若干茶色がかった栗色。とにかく癖のない直毛。そして、量が多かった。
髪が健康なのはいいことなのだけれど、私は髪のアレンジが大の苦手だ。
長く伸ばしている時には、そのまま下ろすか、または後ろで、一つでくくる。
ポニーテールにしても、髪量が多く、癖がないため、髪の重みで下がってきてしまう。

でも、自分の髪を撫でるのは好きだった。洗って乾かした後は、つやつやになるからだ。だから、事あるごとに自分で髪を撫でていた。まだ中学生である私は、頭を撫でてくれるような彼氏はもちろんいない。

そんなある日の放課後、クラスメイトと話をしていた時、なぜか一人の男子が、私の髪形を変えてみたいと言い出した。きっかけはよく覚えていない。なんでも、私の横の髪を三つ編みにして、後ろでまとめてみたいらしい。
「ちょっと、お嬢様っぽいね。」
一緒にいた友達の杏奈は、私の髪をいじるのが好きで、時々三つ編みにして遊んだりしていたから、その言葉に乗ってしまった。

いやいや、有森君が私の髪をいじるの?冗談でしょ?

有森君は、男子の中では一緒に行動することがある数少ない人だ。
ちょっと不思議な男子で、女子とは大抵の人と仲がいい。男子ともそれなりに会話しているが、特別仲のいい人はいないっぽい。そして、女子と仲がいい割には、彼女はいないらしい。特定の女子と一緒にいるところも見たことがなかった。年の離れたお兄さんがいるせいか、周りの男子よりは大人っぽいところがあった。

なにより、同級生の女子の髪形を変えてみたいと言い出すところからして、変わってる。別に変な意味ではない。私も自分自身変わってる自覚があるから、お互い様だ。

彼の方を見ると、杏奈と共にすっかり話が盛り上がっていた。杏奈は持っていたブラシや櫛、髪ゴムなどを机に出している。
「ほら。古内。椅子に座って。」
彼や杏奈の押しに負けて、私は渋々椅子に座った。
しばらくすると、髪が持ち上げられる感覚や、ブロック分けする時に櫛が頭皮に軽く当たる感触が、不定期に私を襲った。

「痛かったりしたら、ちゃんと言って。」
「わかった。」
痛みは全くなく、それどころか髪を触られていると、私は眠気に襲われた。
私の頭の後ろでは、彼と杏奈が色々話しながら、髪を結っていく。
「はい。完成。」
彼の声がして、私はハッと意識を取り戻した。寝ていたわけではないが、意識はだいぶ遠くに行っていた。危ない。危ない。

くるりと振り返ると、彼と杏奈が顔を合わせて、頷いた。
「うん。かわいい。いつもこの髪形でくればいいのに。」
「髪結わないの、もったいないよね。とっても似合ってるよ。」
なぜか、2人にべた褒めされる。私は髪形を崩さないように、軽く手を触れて確認した。確かに最初に彼に言われた通りの髪形にされているらしい。

「じゃあ、今日はこのまま帰ってね。」
「ええっ。」
「だって崩すのもったいないし。髪ゴムはあげるから。」
杏奈がそう言うと、彼もいつもの笑みを浮かべた。
「そういう髪形してると、古内って、お嬢様っぽいよな。」
私はなんと返していいか分からず、笑ってごまかした。

結局その日はそのまま解散になり、私は結われた髪形のまま、家に帰った。家族の評判も良かったが、不器用な私には、同じような髪形をすることは困難だった。結局同じ髪形は二度としなかった。

有森君も、その後、私の髪形を変えたいと言ってくることはなかった。一回髪をいじったら、満足したのかもしれない。
私は今日も髪を後ろで一つに結わえて、登校した。


有森君視点は、以下よりご覧ください。

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