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【短編】夢の中の彼

私は、友達といる時に、なぜかその場にいた男性に、包丁で切り付けられた。一瞬見えた男性の顔には、まったく覚えがなかった。
その後、私はすぐに医師の診察を受け、看護師に丁寧に傷の手当てをしてもらった。
傷の手当てをされ終わった私の隣には、見覚えのある彼がいた。

彼は私の様子を見ると、安堵あんどしたように微笑んだ。
彼の顔を見て、これは夢なんだと思った。

私には、よく見る夢がある。
迷路のような建物の中にいることが多い。ショッピングモールだったり、大型のホテルだったり、学校だったり。
そして、必ず彼が出てくるという共通点がある。
彼は、夢によって、私の彼氏だったり、私の夫だったり、私の兄や弟だったりする。とにかく、私にちかしい存在であるらしい。

どの夢でも、私と彼の仲はとてもいい。他人にうらやましがられるほどに。
そして、彼はとても過保護だ。私は夢の中で、彼に何度も助けられている。

そんな彼だが、最後に必ず私に何かお願い事をささやく。
でも、私はいつもそのお願い事を忘れて目を覚ます。

今日は、包丁で切りつけられるという衝撃的な夢を見たせいか、私は普段より2時間早く目を覚ました。その後、寝直したが、寝不足を強く感じている。
現実には、私を起こしてくれる彼もいない。私は何とか身体を起こし、朝食を済ませ、家を出た。

そして、近くの信号を赤の状態で渡ってしまい、車に引かれた。

目を開けると、夢の中の彼がいて、寝ている私を見降ろしていた。
私が目を開けたのを見ると、いつもは安堵あんどしたような微笑みを見せるのに、今日はなぜか苦笑していた。

「僕は何度も忠告した。」
「何を?」
「この夢での出来事を、外部に出すようにと。文章で書き表すでもいい。人に話すでもいい。とにかく、自分の中に留めておかないようにと。」
「・・そんなこと、覚えてない。」
私がそう答えると、彼は軽く息を吐いて、私の上に覆いかぶさった。

「まぁ、いいけど。おかげで僕は君が手に入ったから。」
「?」
「もう、目は覚めないよ。僕の忠告を無視した君が悪い。」
「これは夢だから、覚めるものではないの?」
「さっき、車に引かれたことを忘れたの?君はもういわゆる『永遠の眠り』についたんだよ。」
「・・・。」
「これからはずっと一緒だね。」
彼はそう言って、私の目の前で、嬉しそうに笑った。


私は、パソコンのタイピングを止めて、今までに打った文章を見直した。
大丈夫そうかな。
そして、「公開設定」をクリックし、タグをつけて、「投稿する」をクリックする。
これで、彼のお願い事は叶えた。

それから、私の夢の中に、彼は現れなくなった。
もしかしたら、他の人の夢の中に移動したのかもしれない。

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