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【短編】真実の耳飾り

私とこうちゃんは、ゲーム友達である。
会って、一緒にゲームをすることもあるし、スカイプ通話しながら、パソコンのオンラインゲームをすることもある。

元々は、同じ大学の同級生だった。その時にお互いゲームが好きであることを知って、度々ゲームして2人で過ごすようになった。
そして、2人は大学を卒業し、共に東京の企業に就職し、私は神奈川に、こうちゃんは埼玉に住んでいる。

お互いが社会人になってからも、休みの日や、仕事が終わって自宅に帰った後、ゲームをして過ごしている。
もちろん、休みの日に他の予定が入ることもあるから、その場合はそちらを優先する。
スカイプ通話で話すことも、ゲームには限らなくて、仕事の話は少ないけど、付き合っている人がいる時は恋愛話もする。

この付き合いがいつまで続けられるかは分からなかったけど、私たちはこの時間をそれなりに楽しんで過ごしていた。


久しぶりに会って、ゲームをしようという話になった。
共に土日が休みの職場だったから、泊りがけでイベント攻略をする話になった。私は実家暮らしだったので、泊まるのは彼の家になった。
大分長くゲーム友達を続けてきた私たちだったが、彼の家に泊まるのは初めてだった。抵抗がなかったと言えば、嘘になる。

彼の家に行ったことは、何度かある。よくある普通のアパートだ。
ゲーム機やゲームソフトは綺麗にしまわれているので、一見すると普通の2DKで、荷物も少なくすっきりしている。
私と彼は、テーブルの上に、ノートパソコンを背合わせでおいて、向かい合ってゲームをする。お互いが目の前にいるから、話すのもスカイプを使わず、地声だ。

イベント攻略もひと段落し、買ってきた総菜を肴に、夕食を兼任した晩酌を楽しんでいると、彼から、小さな箱を渡された。リボンがかけてあり、プレセントのようだった。
「これは?」
「来週誕生日だったと思って、プレゼント。」
「わざわざ準備してくれたの?ありがとう。開けてみていい?」
「どうぞ。」

嬉々として、リボンを外して箱を開けると、中には片耳用のイヤーカフが入っていた。しかも、このモチーフは見覚えがある。
「これって、真実の耳飾り?」
彼は視線をふいっとそらして頷いた。

『真実の耳飾り』は、今私たちがやっているゲームに出てくる装身具の名前だ。それも、BOSS級の魔物、闇竜が稀に落とすレアアイテム。まさか、実際のイヤーカフとして商品化されているとは。
「ありがとう。すっごい嬉しい。」
「それが必要なクエストの内容覚えてる?」
「え・・クエスト?」

私は、目を閉じて、ゲームの内容を思い返す。そのクエストは、彼と一緒にクリアしたはずだった。
確か、レアキャラを仲間にするために、その『真実の耳飾り』を手に入れなくてはならなかった。だから、何度も闇竜とバトルしなくてはならなかったのだ。『真実の耳飾り』をレアキャラに渡して、求愛をし、それが受け入れられるとレアキャラが仲間になってくれるのだ。
ん?求愛?

「僕と付き合ってくれないかな。」
彼は真剣な顔でこちらを見つめて言った。
「え?私と?本当に?」
「確か、今は誰とも付き合っていないと思ったけど。」
そう、今はお互い交際している特定の相手はいない。お互いの恋愛遍歴は、ゲームしながらすべて話し合ってきているから、認識済みだ。

「他の子とも付き合ってきたけど、結局最終的に、美亜のところに戻ってくることが分かったから。僕は美亜のことが好きなんだと思った。」
「でも、私たちゲームを一緒にしてきただけじゃない?そんな雰囲気になったこともなかったし。」
「正直、美亜とゲームをしている時間はとても楽しかったから、告白しちゃうと、この時間も無くなっちゃうかと思って、悩んだけど。やっぱり、言っておこうと思って。」

彼は私に向かって、手を差し伸べた。
「答えを聞かせてくれる?美亜。」
私の顔は、きっと今までにないくらい真っ赤になっていたと思う。これは、先ほど飲んだお酒のせいなのか、それとも彼の告白のせいなのか。
ただ、私も彼の存在を手放したくはないと思った。
手元で、『真実の耳飾り』がルームランプの光を反射して、煌めいた。

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