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短編小説Only

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普段は長編小説を書いていますが、気分転換に短編も書いています。でも、この頻度は気分転換の枠を超えている。 短編小説の数が多くなってきたので、シリーズ化している(別のマガジンに入っ…
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#誕生日

【短編小説】Happy Birthday

滅多に鳴らない自宅のインターフォンが音を奏でたのは、21時頃だった。 特に誰かと約束はしてない。宅配便かと思って、モニタに出ると、そこに映し出されていたのは、スーツ姿の男性だった。 「こんな時間に何のよう?」 「寒いから、まず家に入れてくれよ。」 モニタを切って、軽く舌打ちする。明日も仕事なんだから、平日の夜に来ないで欲しいものだ。 玄関を開けると、「寒い、寒い。」と言いつつ、彼が入ってくる。しばらく会わない内に、髪に白髪が混じってきたと思ったら、それは髪にうっすらと積

【短編小説】会いたい人に、夢で会えた。

仕事を休んでみた。 特に用事も、予定もなかった私は、結局家でゴロゴロと過ごしている。 折角の休みなのに、もったいないと思う。 でも、こういう考えが、休んでいるようで休んでいないような状態を、生んでいるのではないか?せっかくの休みなんだから、何か普段はできないことをやろうなんて考えてしまって、でも、一人で出かけてもなと思ってしまう。 そんなことを考えていたら、私は広い部屋の中で、学生時代の同級生たちと、テーブルを挟んでしゃべっていた。 甘いサワーを飲みながら、私はこれは夢だ

【短編小説】誕生日に望むもの

神のご加護 「貴方に神のご加護がありますように。」 彼女は、俺と別れる時に、いつもきまり文句を言う。 それは彼女と交わした、数少ない手紙の末尾一文でもあった。 だが、そう言われる自分は神の存在など信じていない。 彼女がそう言ってくれるから、それに慣れない笑顔で答えるだけ。 もし、神がいるのなら、もっと早くに、彼女と出会わせてほしかった。 「もうすぐ誕生日ですね。」 「はい。今となっては、誕生日が来ても、特に嬉しくもなんともないですが。」 俺がそう答えると、彼女は寂し

【連作短編】今日が誕生日の君に捧ぐ。Θ1

体の前に構えていたフルートから口を離す。 部活でいやって程演奏しているためか、安定して音は取れるようになってきた。やっぱり独学とは違う。 もし、彼女の前で演奏したら、その瞳をキラキラさせて聞き入ってくれただろうか。以前家に来た時に、初めて彼女の前でフルートを構え、音を出しただけでも、あんなに喜んでくれたのだから。 と思いつつ、もう彼女と会う機会は巡ってこないのだが。 僕はフルートをクロスで拭きながら、そう思った。 フルートを始めたのは、年の離れた姉の影響だった。姉は高校の

【短編】誕生日

誕生日「先輩。いつになったら、食事をおごってくれるんですか?」 会社の打ち合わせスペースで、明日行う作業の打ち合わせをしていた時に、突然そう声をかけられた。 確かに、かなり前にあった飲み会で、今度食事をおごると軽く約束をしたような気がする。 彼女は、自分が勤めている会社に出向してきている協力会社の社員だ。 出向という割にはもう5年近くになるから、かなり長い。 「先輩」というのは、単にからかってそう言ってきているだけで、実際は同じプロジェクトのリーダーを私がしているから、私は