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【短編】誕生日

誕生日

「先輩。いつになったら、食事をおごってくれるんですか?」
会社の打ち合わせスペースで、明日行う作業の打ち合わせをしていた時に、突然そう声をかけられた。
確かに、かなり前にあった飲み会で、今度食事をおごると軽く約束をしたような気がする。

彼女は、自分が勤めている会社に出向してきている協力会社の社員だ。
出向という割にはもう5年近くになるから、かなり長い。
「先輩」というのは、単にからかってそう言ってきているだけで、実際は同じプロジェクトのリーダーを私がしているから、私は彼女の上司に当たる。

「じゃあ、3日後のランチを一緒にどうだろう?ただ、お昼ちょうどだと混むから、13時からずらして昼休みを取るでもいい?」
「たぶん、大丈夫だと思いますけど。他のメンバーに確認取りますね。」
彼女がそう言って、ニッコリと笑った。

彼女には、私といくつか共通点がある。
一つは、同い年であるということ。
もう一つは、誕生日が同じ日であるということだ。
今まで生きてきた中で、誕生日が同じで、しかも同い年の人は初めてだった。
だから、何か運命的なものを感じるとか、そういったことはない。
彼女は等しく私の部下でしかなかった。

初めて訪れたレストランは、13時といえど、少し混んでいたが、それでも待つことはなく、席に座ることができた。
2人とも、好きなランチセットを注文し、ほぼ仕事の話をして過ごした。
「2人で食事を取るなんて、初めてですね。」
「仕事柄、外で食事を取りにくいからね。」

私の仕事は、ヘルプデスクのスーパーバイザー的役割。つまり、電話で受けたサポート電話の最終対応者だ。お昼休みは通常は12時から1時間と決まっている。仕事場はオフィス街にあって、飲食店が離れたところに固まっているせいか、行って帰ってくるだけでも時間がかかる。だから、ゆっくり食事を外でとっているのには、時間が足りないのだ。

彼女は、私とはプロジェクトは一緒だが、行っている仕事は、パソコンや周辺機器の交換・アップデート等で、仕事場にいないことも多い。
普段はお互いとも、前もってお弁当などを買い、職場で食べることが多い。

「そういえば、私来週の月曜日、誕生日なんですよ。」
知っていると思いつつ、「そうなんだ。おめでとう。」と声をかける。
「先輩は何が欲しいですか?」
「?」
話のつながりが見えなくて、私は首を傾げる。
「誕生日。同じですよね?」
知っていたのかと、内心うろたえつつも、私は何とか答えを返す。
「ええと、休み?」
「それは、私があげられるものではないから、駄目ですよ。」

彼女は、苦笑して言葉を続けた。
「先輩の誕生日を祝ってあげられるのも、これが最後だから、なにか贈り物でもと思いまして。」
ああ、それも知っている。彼女は間もなく出向期間が終わるのだ。もう、彼女に会うことも無くなるだろう。
彼女は目の前で楽しそうに私の答えを待っている。
私はのどの渇きを覚えながら、恐る恐る口を開いた。


本日。12月6日は、私、説那せつなの誕生日です。
記念で短編を書いてみました。
誕生日ケーキは昨日既にいただきました。

私の創作物を読んでくださったり、スキやコメントをくだされば嬉しいです。