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デジタル庁創設は教育にどう影響する?

2021年6月18日、政府は2021(令和3)年9月1日にデジタル庁が創設されることを見据え「デジタル社会の実現に向けた重点計画」を閣議決定しました。この計画は、「デジタル社会の実現に向けて、迅速かつ重点的に講ずべき施策を明らかにしたもの(吉田デジタル改革相)」で、デジタル庁が創設された後に進めていく施策の計画書となっています。
デジタル庁は、行政の縦割りを打破して規制改革を断行しながら「デジタル社会」の形成を推進していくことを期待されている新しい庁です。

今回筆者がこの記事で取り上げる理由は、教育が「重点的に取り組むべき3分野(健康・保健・介護/教育/防災)」の一つに入っていたからです。準公共分野と位置付けられプラットフォームの整備などは2025年までに実装を目指すとされています。日本が目指す「デジタル社会」について見ていきながら教育に関わる部分をまとめてみたいと思います。

「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(本文)

1.デジタル社会が目指す姿「トータルデザイン」

まずは、教育分野だけに限らない日本全体のデジタル社会についてみていきたいと思います。最初に日本でデジタル関連の法案ができたのは平成12年(2000年)です。通称、IT基本法(正式名:高度情報通信ネットワーク社会形成基本法)が制定され、デジタル関係のルールの整備などが検討されてきました。しかし、段々とネットワーク上には「情報・データ」が蓄積され、データの活用という点についての検討も同時に進められて行くことになります。
令和2年(2020年)12月25日には、通称、デジタル改革基本方針(正式名:デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針)が閣議決定され、IT基本法の見直しや、デジタル庁設置の考え方などが盛り込まれました。このデジタル改革基本方針では、デジタル社会の目指すビジョンを以下のように掲げています。

● デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会
● 誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化

今回、閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」では、目指すべきデジタル社会の形成に向けた官民の様々な施策や取組みの関係について、その全体像すなわち「トータルデザイン」を示しました。このトータルデザインは、国民からみた時に3つの階層に区分できるとしています。「教育」は、特に①で「準公共」という文脈の中で取り上げられています。

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① 徹底した UI・UX の改善と国民向けサービスの実現
誰にとっても容易に、迅速に、行政手続等を終えられるよう、サービスを実現する(準公共分野も対象)
② デジタル社会に必要な共通機能の整備・普及
行政の業務システムや基盤システムなどを共通化し、効率的に全国どこでも同様のサービスをが受けられるような体制を構築する
③ 包括的データ戦略
安全性を確保しながら、効果的で生産的なデータの活用を目指す

2.基本施策として「教育」が取り上げられている箇所

「デジタル社会の実現に向けた重点計画」では、3部構成になっています。第1部は背景やデジタル社会の理想像が描かれ、第2部に「9つの基本的な施策」として大まかな方向性を示しています。第3部では、具体的な施策集が記載してあって、KPIも示されています。

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ここでは第2部から、教育に関する箇所をピックアップして掲載したいと思います。9つある中の4つの施策で「教育」は登場します。様々な角度から教育について取り上げられていますが、個人的には「2.徹底したUI…」と「4.官民をあげた…」が注目すべきところでした。特に「2.徹底したUI…」については、子どもたちのデータがどのように管理されるのかを探るには興味深い資料です。

「1.デジタル社会に必要な共通機能の整備・普及」より抜粋

政府情報システムで、共通の基盤・機能を提供する複数のクラウドサービス
(ガバメントクラウド)を整備し、令和3年度(2021年度)に運用を開始する。独立行政法人、地方公共団体、準公共分野(健康・医療・介護、教育、防災等)等の情報システムについてもガバメントクラウドの活用に向けた方策や課題等を検討する。

「2.徹底したUI・UXの改善と国民向けサービスの実現」より抜粋

地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化を目指していく中で、就学にかかる学齢簿作成、就学援助認定等のシステムの「標準仕様書」を令和3年(2021 年)夏までに作成する。
教育を準公共分野として重点分野に設定し、デジタル化を推進していく。
ア. 教育現場におけるデータの利活用の促進
 全国の学校で共通に利活用が必要な教育データについて、国際的な標準を参考にしつつ、更なる標準化を推進する。児童生徒一人一人の ID については、マイナンバーカードの活用を含め、ユニバーサル ID や認証基盤の在り方を検討する。
 また、全国の学校で CBT を活用した学習診断等ができるプラットフォーム(MEXCBT)の活用を促進することで、学びの変革を推進するとともに、端末の持ち帰りも含め、安全・安心に端末を取り扱う方法等に関する手引等を策定し、保護者への周知をはじめ更なる利活用を促進する。
 さらに、学校内外のデータの将来的な連携も見据えた教育データの蓄積・流通の仕組みの構築に向けて、関係府省庁間で検討し、目指すべき姿やその実現に向けて必要な措置を盛り込んだロードマップを提示する。

イ. 教育ビッグデータの利活用に向けた環境整備
 ガバメントクラウドを全国の学校や教育委員会等が活用できるよう、校務支援システムを含めた教育分野の情報システムの在り方について具体的な対応方策や課題等を整理する。

ウ. 対面とオンラインのハイブリッドによる学びの実現
 令和6年度(2024 年度)を見据え、制度上の位置付けや財政負担も考慮した上で、デジタル教科書の今後の在り方を明確にするとともに、デジタル教科書と質の高い多様なデジタル教材(ドリルや動画、音声等)との連携を推進する。
 また、先端技術(AR・VR やセンシング技術等)や教育データを効果的に利活用できるよう、教育現場と企業・研究機関等との協働による実証を行うとともに、社会の多様な人材が現場に参画できるよう、特別免許状の見直し(民間企業での勤務経験など多様な経歴の評価等)を図る。

「4.官民を挙げたデジタル人材の育成・確保」より抜粋

(1)デジタルリテラシーの向上
全ての国民がデジタルリテラシーを向上させることができるよう、「情報活用能力」の「学習の基盤となる資質・能力」としての位置付け、小学校におけるプログラミング教育の必修化中学校におけるプログラミング教育の内容の充実高等学校における情報科の共通必履修科目「情報Ⅰ」の新設を盛り込んだ新学習指導要領に基づく取組を着実に実施する。
その際、必要に応じ地域密着型の人材育成に貢献する高等専門学校等、専門的な知識・技術を有する人材の活用を図る。また、令和3年度(2021 年度)に児童生徒の情報活用能力の定量的測定のための調査を実施するとともに、情報モラル教育の充実に向けた取組を推進する。
あわせて、社会人向けの実践的なプログラムの開発・拡充やリカレント教育を支える専門人材の育成、リカレント教育推進のための情報発信等の学習基盤に関する整備に向けた取組を実施することで、産学連携による社会のニーズに即した ICT スキルの習得のためのプログラムなど、大学や専門学校等における実践的なプログラムを充実する。さらに、教育訓練給付における IT 分野の講座充実に向けた関係府省の連携の推進や職業訓練(離職者訓練、
在職者訓練)のデジタル関連分野への重点化等により、第四次産業革命などデジタル技術の進展を踏まえたニーズに応じた人材育成を強化する。
これらの取組や、後述の「デジタル活用支援」や「地域 ICT クラブ」の取組を通じて、子供から高齢者に至るまで、それぞれのライフステージに応じ、全ての国民が必要とする ICTスキルを継続的に学べるよう、引き続き環境整備を行う。

施策6.アクセシビリティの確保

(4)経済的事情等に基づく格差の是正
 生活に困窮される方への支援の強化に向けて、生活困窮者のデジタル利用等に関する実態を把握し、好事例の収集等を行うとともに、支援策を検討する。
 経済的格差等によって子供たちの教育格差、学力格差が生じることのないよう、全国の学校における ICT 環境の整備とそれを活用するための ICT 支援人材の学校への配置促進、低所得世帯向けの通信環境の整備を図る。

3.具体的な施策集

ここでは、教育分野における具体的な施策がKPIとともにまとまっていましたので該当施策を掲載したいと思います。

「デジタル社会の実現に向けた重点計画」第3部 施策集より

[No.3-1] 児童生徒1人1台端末の整備
KPI(進捗): 教育用コンピュータ1台当たりの児童生徒数
KPI(効果): 児童生徒1人1台端末の実現
[No.3-2] ICTを活用した教育サービスの充実
KPI(進捗)
・ EdTech導入補助金による学校等教育機関へのEdTech試験導入(令和3年度中に約3000校)
・ STEAMライブラリーに掲載するSTEAM教育コンテンツの拡充(令和3年度中に約80件)
KPI(効果)
 ・ 実社会で必要となる資質・能力の育成
・ 感染症の拡大時等の非常時における教育の継続性向上
[No.3-3] 児童生徒の学習データの継続的な活用に向けたデータ基盤の検討
KPI(進捗): 教育データ標準第2版の公表(令和3年度中に公表予定)
KPI(効果): 教育データ利活用に向けた基盤の整備
[No.3-4] 教育・学習分野におけるデータ連携の推進
KPI(進捗): 調査研究事業を通じた教育分野におけるデータ連携の推進に係る検討を令和3年度中に実施
KPI(効果): 調査研究事業を踏まえた教育分野におけるデータ活用の基盤構築方針の取りまとめ
[No.3-5] 新時代の学びを支える先端技術の活用推進
KPI(進捗): 本事業での実証成果等を踏まえ、令和3年度内を目途に、学校現場における先端技術の利活用に関し、ガイドブックを増補・改訂
KPI(効果): 学校現場における先端技術の効果的な活用
[No.3-6] 学習者用デジタル教科書普及促進事業
KPI(進捗):
学習者用デジタル教科書の学校における使用や供給に関する課題、クラウド配信に関するフィージビリティ、使用による効果・影響に関する実証の実施状況(1年に1度成果物の公表)
KPI(効果):
 義務教育段階の公立学校のうち、学習者用デジタル教科書を整備している学校の割合について、令和7年度(2025年度)までに100%を目指す。(令和元年度(2019年度):8.2%)
[No.6-9] 情報教育の強化・充実
KPI(進捗): 授業中にICTを活用して指導する能力について、「できる」、「ややできる」と回答した教員の割合
KPI(効果): 令和2年度(2020年度)以降の新学習指導要領の円滑な実施
[No.7-9] 地域で子供たちがプログラミングなどICT 活用スキルを学び合う場の普及促進
KPI(進捗): 調査研究事業を通じた「地域ICTクラブ」の全国ネットワーク化等の検討を令和3年度中に実施
KPI(効果): 調査研究事業を踏まえたガイドブックの改訂を令和3年度中に実施

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