『和名類聚抄』で「〇〇」を調べてみた
はじめに
この記事は、clubhouseのルーム「声優うのちひろが新明解国語辞典を読む。あの声で」が2022年3月13日で300回を迎えることを記念したものである。
『和名類聚抄』とは
『和名類聚抄』は平安時代中期に編纂された辞書である。『倭名類聚抄』また『倭名類聚鈔』とも表記される。以下『和名抄』と略す。勤子内親王が源順に命じて作らせた。これ以降に出る日本の辞書に大きな影響を与えたのみならず、当時の社会制度・風俗などを知る史料としての側面も持つ。
今野(2014)によると、『和名抄』の特徴は以下ようにまとめることができる。
そもそも「類聚」とはどういう意味だろうか。現代の辞書で調べてみよう。
『和名抄』は「漢語に和名をつけて分類した書物」と解することができる。『和名抄』を使うときは「分類」という特徴に気をつけなければならない。
『和名抄』を"使って"みる
ある単語(名詞)を『和名抄』で調べたいとき、まずは調べたい語の分類を推測する必要がある。例えば、二十巻本の巻第一は“天部“ “地部“ “水部“で始まる。“天部“ はさらに細かく “景宿類“ “雲雨類“ “風雪類“と分かれる。二十巻本の目次は後ろの付録にまとめている。
例えば「耳」という語を調べたいとする。耳は体の器官であるから、巻第三 “形体部”、さらにその中の“耳目類”にあると予想され、実際そうである。
(*[]内は二段組で書かれている。以下同じ)
書式は、現代の辞書と同じように見出し語がトップに置かれ、その下に説明が続く。冒頭に出典が記されている。ここでは「孫愐切韻」が相当する。これは中国の辞書である。
続く二段組になっている箇所には「和名」が万葉仮名で書かれている。
最後に語の説明が来る。ここでは「声を聴くを主るものなり」となるだろうか。
ルームで読んでいる『新明解国語辞典』の語釈と比較してみよう。
以下、取っ手の意味や平たい物の端(用例:「パンの耳」など)が続く。千年経って医学の進歩・意味の広がりを感じる。
もう一つ、植物の「菊」を取り上げてみよう。巻第二十“草木部”の“草類”に記述がある。
注目したいのは和名の箇所である。「加波良與毛木」または「可波良於波岐」と書いてある。後者は折口信夫の『辞書』でも触れられているように歴史的な訓である。
『和名抄』にはそれが編まれた当時の読み方が紹介されている(今野
2014)。現代では使われていないもの、また不自然に思える和名もあるが、そのことも含めてとても興味深い。『新明解国語辞典』の語釈も紹介しておく。
3に関連する語
最後に「声優うのちひろが新明解国語辞典を読む。あの声で」が300回を迎えることを記念して3に関する語を3つ紹介しよう。
1 三月
巻第一"歳時部"には(暦の)月の別名が列記されている。
『新明解国語辞典』では次のように説明されている。
2 中指
続いて説明に「三」が入る語を紹介しよう。巻第三“形体部”の「中指」である。
シンプルに書かれている。和名は「なかのおよび」である。
3 三白草
この語はclubhouseのルーム「異業種交流で化学反応」にてガーデンプランナーのhacoさん、石野竜三さんにご協力いただいた。
今では「半夏生」と呼ばれる植物の一種である。「葉の上に黒い点があり……」という説明がつけられているが、hacoさんによれば厳密には葉ではないとのことだ。
『新明解国語辞典』には植物ではなく時期としての「半夏生」が記載されている。
ちなみに、『和名抄』では「半夏」という植物に「ほそくみ」という和名のみ与えられている。
『和名抄』の他の特徴
最後に、『和名抄』で面白いと思った点を紹介したい。『倭名抄』二十巻本の巻第五から巻第九にかけて、全国の地名が列記されているのである。昔の地名なのでもちろん東京や大阪などとは書かれていないが、一部現代まで残っているものもある。出身地や現住所を調べてみると面白いかもしれない。
付録:二十巻本目次
巻第一
天部
地部
水部
歳時部
巻第二
鬼神部
人倫部
親戚部
巻第三
形体部
巻第四
術芸部
音楽部
巻第五
職官部
国郡部
巻第六〜巻第九
国郡部(承前)
巻第十
居處部
巻第十一
舩部
車部
牛馬部
寶貨部
巻第十二
香薬部
燈火部
布帛部
装束部
巻第十三〜巻第十五
調度部
巻第十六
器皿部
飲食部
巻第十七
稲穀部
菓蓏部
菜蔬部
巻第十八
羽族部
毛郡部
巻第十九
鱗介部
虫豸部
巻第二十
草木部
参考文献
今野真二著『辞書をよむ』平凡社新書(2014)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?