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<読書記録><子育て>旅をする木 子供たちに手渡す人生の宝

旅をする木 
子供たちに手渡す人生の宝

出会い

もう、何度この本を手にしたことでしょう。初めて手にした時は、これが星野道夫さんの最後のエッセイとは知りませんでした。

その事を知ったのは、龍村仁監督のエッセイでした。それを知っても、私の目の前の「旅をする木」の印象が変わることはありませんでした。
この本は星野道夫さんが綴った言葉以外の何の情報も不要であり、何の影響も無い、と思います。

友人に勧められて、書店で最初の数ページを見たときに、ああ、この方、好きだなあと思いました。
読む人への配慮が行き届いた文体にお人柄を感じました。
お手紙のような優しい文章から、偉業を為されている方なのに、謙虚で、だからといってご自身の仕事には誇りを持っておられることが数ページで読み取れました。
そして何より、読みやすい文章。聡明な人は難しいことや複雑なことを簡単に読めるように書く、と本好きの父がよく言っていましたが、まさにこの人のことだと思いました。

長女


娘が高校生の頃、「読書感想文を書くのだけど、何かおすすめの本は無い?」
と相談された時に、真っ先に「旅をする木」を薦めました。

どんな本か、私はどこに共感し、感動しているか、を話し、できれば星野道夫さんのご著書を複数読んでほしいと伝えました。
「部活もあるし、そんなに沢山読めない」と言っていた娘でしたが
複数のご著書を読み、そこから学び、感じたことを、自分が最も大切にしている活動「吹奏楽」への気づきや意欲として受け取ったことをまとめていました。

読書感想文を提出後、改めてどこに感動したか、何が心に残ったか、ということを話し合いました。
本当に楽しい珠玉の時間でした。

この読書感想文は星野道夫氏夫人、星野直子さんにご覧頂く機会を得て、直子さんとお会いする事が出来ました。1冊の本が心の琴線に触れて、美しい想いとなって憧れの人に届きました。

母としての私


子供たちが中学生になった時に、北海道へ行くことになりました。
仕事といえば仕事ですが、行く必要があるわけでもないけれど行きたい、そんな旅でした。

中学生の子供たちを置いて数日家を空けることに後ろめたさを感じていたときにも「旅をする木」が背中を押してくれました。

「いつか、ある人にこんなことを聞かれたことがあるんだ。たとえば、こんな星空や泣けてくるような夕陽を一人で見ていたとするだろ。もし愛する人がいたら、その美しさやその時の気持ちをどんなふうに伝えるかって?」
「その人はこう言ったんだ。自分が変わってゆくことだって……その夕陽を見て、感動して、自分が変わってゆくことだと思うって」

旅をする木

旅をすることで、人は豊かになれる。
豊かになった自分が周囲を幸せにできる、そう思いました。

長男

子どもの頃に見た風景はいつか大人になり、人生の岐路に立った時に、人の言葉ではなくいつか見た風景に励まされたり、勇気を与えられることがきっとある」

旅をする木

思春期の息子が盛大に反抗をしていた頃
いつも心に刻まれたこの言葉を思い出しながら、きっと人生の岐路に立ったときに、子供の頃に私が見せた沢山の自然を思い出し、生き方を立て直すだろうと信じて自分にできることを続けていました。

そして、親元で暮らす反抗期なんて、大した人生の岐路じゃない、と思っていました。

対話も難しくなっていましたが、そろそろ反抗も飽きてきたかな?と思うタイミングで、私が関わっている自然環境学習グループで講師にお招きする松本紀生さんの当日のサポートを提案しました。

松本紀生さんは星野道夫さんに憧れ、アラスカ大学へ行き、写真家になった方です。
息子に「旅をする木」をまだ手渡せていませんが松本紀生さんを通して、心に蒔かれた種は、いつか時を得て芽を出し、この本を手にする日が来ると確信しています。
そして、自分の子供たちにもこの本から学び「変わった」新しい自分で子育てをするに違いないと思っています。

人と出会い、その人間を好きになればなるほど、風景は広がりと深さを持ってゆきます。
やはり世界は無限の広がりを内包していると思いたいものです。

旅をする木

人工知能を専門にしている息子には、対極にある「自然」や「人と人」の世界観ですが、だからこそ、これからめざましく変わっていく世界の中で、変わることのない、生身の人間に必要なものを忘れずに、人のより良い未来を目指す「賢者の杖」として、この本をいつも身近に置いてほしいと願っています。

本を書いた私

私にとって傑出した随筆はこの「旅をする木」を置いて他にありません。
初めての本を書く時に星野道夫さんが生み出す美しく力強く知性と生命への愛に溢れた言葉に、わずかなりとも肖りたいと思い、手にする度に、この「旅をする木」という存在があるのに私の本なんて、と、何度も中断しました。

2019年、星野道夫さんのように、ではなく、私にしか書けない事を書こうと、やっと心が定まり、1冊の本を出版しました。
私にとって欠くことのできない星野道夫さんの言葉も引用させていただきました。

あの日、友人に勧められてこの本を手にすることがなかったら?
いや、あの日出会えなくとも人生という旅の途上で、必ずこの本に出会い、人生を再構築したであろうと思います。

日本の片田舎に住む私は、旅をする木となって本の中で星野道夫さんに導かれてアラスカを旅し、アラスカの人々に会い、本を閉じて、新しい自分となって日常に戻って来ます。
元の私では無く少し変わった私として。
星野道夫さんは、今も本の中で生き生きと人や自然を語り、私を励ましてくれます。
本の中の旅は、その時々でさまざまな景色や出会いを見せてくれます。
前回は気づかなかった言葉が私を導き励ましてくれます。

2冊目の本に二の足を踏んでいた私でしたが、大人になってから書くとは思わなかった「読書感想文」を書くことで、前に進もうと思いました。
読んでくださる方への敬意を込めて。


#読書の秋2022

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