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ワンちゃんの喜び:大切にしたいもののためにこそ、まわりのことにも目を向ける

兵庫県西宮市に住むアキさんは、キャリア13年のトリマーです。
幼少期から犬を飼ってきたので、犬の気持ちも飼い主さんの気持ちもよく理解できます。

◆ ペットは家族。

時には人間以上に、人の気持ちをくみ取ってくれることもあります。
アキさんは、犬が喜ぶ姿を見るのが大好きでした。

「どうすれば、ワンちゃんにとって居心地の良い環境が作れるだろう?」

自分が飼っている犬はもちろん、いろんな人の犬も含めて、アキさんは「犬の暮らし」が良くなることを願っていました。

(家でも、サロンや病院でも、ワンちゃんが心地よく過ごせますように)
そんな純粋な願いを込めて、アキさんはトリマーの仕事に就きました。

しかし、実際の仕事の現場に入ってから、アキさんは理想と現実のギャップに悩むのでした。

◆ トリマーの職場は千差万別

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① 初めて務めたペットサロンは、完全歩合制。
現場に慣れてない中で固定のお客さんを持つことは難しく、1年半しか続けられませんでした。

② 二つめのお店は、予約がある時以外は退勤になり、給与が不安定。
現場には慣れてきたものの、経済的に不安定で、一年で次の仕事を探さないといけなくなりました。

③ 三つめの職場は動物病院、ここでついに人や環境に恵まれました。
院長先生や先輩方が一丸となってペットのケアにあたっていたので、診療や処方など、トリミング以外の専門知識も学ぶことができました。が、

三年ほど続いたタイミングで、病院の経営元が変わりました。それまでのペット中心の経営方針は、効率重視・利潤中心にシフトしてしまったのです。

(せっかくワンちゃんのためにがんばってたのに……)
人や組織の都合でペットの気持ちが置き去りにされていくことが、アキさんはショックでした。経営が変わり、アキさんが次の職場へと移るまで、半年かかりませんでした。

④ 4つめのサロンでも経営者のやり方に疑問を感じました。
一時は独立して自分でペットサロンを開くことも考えました。しかし、育児をしながらの起業には周囲の反対もあり、アキさんは5つめのサロンに移ることになりました。

⑤ ここでは飼い主さんへの接客や提案も自分で担当でき、ある程度は望んだカタチでトリマーの仕事ができるようになってきました。

アキさんはここで現在も仕事を続けながら、知人の紹介でトリマーの講師としても働くようになりました。

◆ 続けたからこそ見えること

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幾度となく、「もう辞めよう」と思ったアキさんでしたが、13年続けてきて気付いたことがありました。

「……ワンちゃんのことが嫌いで辞めようと思ったことは、一度もない!

トリミングの技術を身につけ、働き方に余裕が出てくるにつれて、アキさんは少しずつ周りが見えるようになってきました。

トリマーは、とにかく離職率が高い。
アキさんは踏みとどまれたものの、夢半ばで辞めていった仲間はたくさんいました。

「犬が好きでトリマーになったのに、犬が嫌がることをするのはつらい」
「犬のために働きたいのに、飼い主さんの要望を優先しないといけない」
「人が苦手で動物の仕事に就いたのに、結局は人に振り回されてる」

必ずしも、ペットと和気あいあいと働けるわけではありません。
刃物やシャンプーを怖がるペットもいます。ペットが望んでいないことを飼い主さんが押し付けてしまうこともあります。組織の方針によっては、効率や利益が優先されるところもあります。

しかし、たとえ疑問や困難を感じても、続けたからこそ身の振り方やバランスの取り方も見えてきました。

トリミングの技術と、ペットの気持ちを理解するだけでは、トリマーの仕事は十分ではないのです。

時間をかけて犬や飼い主さんと向き合い、職場を変えながら組織やチームを学んだからこそ、アキさんはその現実に気付けました。

◆ トリマーとワンちゃんの未来を願って

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トリマーの学校では、技術以外のことは深く教えてもらえません。
ペットサロンや動物病院でも、サービスを提供すること以外はあまり気にかけてもらえません。しかし、「人の気持ち」も理解しないことには、トリマーやペットの環境は良くなりません。

「ワンちゃんに喜んでほしいからといって、ワンちゃんの気持ちをくみ取るだけではダメなのかもしれない」
アキさんは冷静に現実と向き合い、これからを考え始めました。

トリマーの組織や業界は、まだまだ成熟していない。だからこそ、他の業界にはない困難も伴う。日々の忙しさや、組織のあり方に、諦めたくなることもたくさんある。

それでも、犬の気持ちを大切にしたいからこそ、人の気持ちも大切にする。アキさんは、希望を信じて次の挑戦を始めました。

「人を信じてくれるワンちゃんの未来を、人が諦めるわけにはいかない!」

そう決意して、アキさんは希望を分かち合える人とつながり始めました。
(To be continued…)

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(執筆・創作責任:勉強を教えない塾福幸塾)


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