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未病ケア狂想曲③ 想いの結実編

(前回までのお話はこちらからご覧ください)

① 願望と失態編

② 資金繰り編

③ 想いの結実編

『Salon de かをり、パワーアップリニューアルします!』

こんにちは、オーナーのカナコです。
いつも当サロンをご利用いただきまして、ありがとうございます。
ちょっぴりドタバタな私たちですが、お客様に温かく見守られて、
今日も無事生きてます。

性格は抜けていても手は抜かず、施術は一流でありたい。
人のカラダって奥が深くて、学びは終わりのない旅のようです。
お客様に、身も心も深く解放されるようなケアをお届けしたい。
そんな想いで腕を磨く毎日です。

現代に生きる女性って、ホントに忙しそう。
ケアするそばから、どんどん疲れが溜まってしまいます。
「疲れが取れない」
「ケアしてもすぐ痛みが出る」
お客様からお悩みをいただくたび、私たちも心を痛めておりました。

もっと施術の効果を深く長く感じていただきたい。
お客様に喜んでいただくためにできることはないか。
そんな手探りの中、、オーストラリアで開催される講習を見つけました。
期間と費用はかかりますが、「コレだ!」とピンときて申し込みました。
(ホントは酔った勢いで申し込んじゃった、なんて言えない)

八月はオーストラリア講習のため、三週間ほどお休みをください。
その分、もっと腕を磨いて施術に還元することをお約束します。
お客様にはご不便をおかけしますが、私を修行に行かせてください。

お休みをいただくお詫びに、割引回数チケットを発行いたします。
半年チケットは五パーセント。
一年チケットは十パーセント。
長くご利用いただくほどお得になっております。

お得意様限定のご案内ですので、ぜひ活用ください
ご購入期間は本日より三日間とさせていただきます。
率直に申し上げますと、渡航費用に充てさせていただけると助かります。
(ホントは酔った勢いで申し込んじゃった、なんて言えない)

カナコの最後の一手は、ミチコとの会話から生まれた。
それは、お客様を頼みの綱とした「先払い戦略」だった。
施術後、カナコはすぐに常連のお客様に電話をかけ、すべてを話した。
失態のこと、講習のこと、支払いのこと。
気心の知れたお客様だからこそ、ありのままを伝えた。

「もっと早く言ってくれたら、喜んで協力したのに」
「頼ってもらえて嬉しいです。一緒にがんばりましょう」
「講習に行った方が施術が良くなるんでしょ? それなら賛成だわ」
お客様からの返事が、カナコの不安を打ち消した。
ミチコの言った通りだった。

カナコは確信を得ると、テルミに連絡をとり、早速案内文を作った。
打ち合わせと編集に一日。顧客リストにメールや手紙を送るのに一日。
施策を打ち出し終える頃には、振込期日まで三日を切っていた。
そして、その残り三日で奇跡は起きた。

「カナコさん、がんばってください! 応援してます!」
「どうせ通うつもりだから、安くなるのはありがたいわ」
「そういうサービス、待ってました」
「お友達にも勧めていいかしら? チケット二枚お願いします」
「オーストラリアの土産話も楽しみにしてます」

チケットは想定の三倍も売れた。
常連客のほとんどが喜んで力を貸してくれたのだった。
そればかりか、周りの人にも声をかけてくれた。
改めてお客様に支えられていることを実感しながら、
カナコとテルミはハイタッチを交わした。
「大失態だったけど、本当にお客様に救われたわ」

チケットの申し込みが来るたび、カナコの決意は強まった。
絶対に、実りのあるオーストラリア講習にする。
カナコが力まないように、テルミは一言添えて仕事に戻った。
「カラダ、売らなくてよかったわね」

−−−それからの二ヶ月は、あっという間に過ぎた。
八月の広く晴れた青空の下に、カナコの姿があった。
「じゃあ、行ってきます!」
青い翼はカナコを乗せて、遥かなる大地へ向けて飛び立っていった。
大きく広がる空には一点の雲もなく、すべてが青く澄み渡っていた。

これは、終わりなんかじゃない。これからが、始まりだ。
飛行機の中のカナコも、地上で見送ったテルミも、同じことを考えていた。

テルミは飛行機が見えなくなるまで見送ると、背を向けて空港を後にした。
そしてオーストラリアでの生活を想像しながら、大事なことを思い出した。
「……そういえばあの子、英語話せたっけ?」

(つづく)

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発行元 : 株式会社福幸塾(www.fukojuku.com)
創作指揮: 福田幸志郎(勉強を教えない塾じゅくちょう)

※ この物語はハーフフィクションです。
  登場する人物・団体・名称等は……半分創作であり、
  実在のものとは……半分関係があります。
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