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『批評王』刊行記念 著者・佐々木敦さんが語る

工作舎では2020年8月末に、佐々木敦さんの『批評王——終わりなき思考のレッスン』を刊行します。
 思想、文芸、音楽、映画、コミック、演劇、アート……多彩な領域に筆鋒鋭利に切り込んできた批評家・佐々木敦さんは、 2019年末に、文学ムック『ことばと』編集長就任と批評家卒業を宣言。 そして、2020年春には初の小説『半睡』を発表され、いよいよ創作活動に軸足を移すとのこと。
 『批評王』は批評活動最後の総まとめとして、「ただそれだけを読んでも面白い」ロジックとレトリックの技が冴えわたる全78編を収録。あえてジャンル別ではなく、批評スタイル別に編集した画期的なアンソロジーです。

8月末の発売が待ち遠しい読者のみなさまのために、刊行カウントダウン企画をはじめます。佐々木さんに3時間におよぶインタビューを行いました! それを順次公開していく予定。ですが、その前に序文があまりに素晴らしいので、一部公開します。題して、批評王の「遺言」。

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第1回 批評王の「遺言」

 本書の題名『批評王』は一種のアイロニカルなジョークとして受け取っていただきたい。私は自分のことを「王」だなどとはもちろん思っていないし、どこかでそう呼ばれているわけでもなければ、誰かにそう思われているのでもないことは重々承知している。…(中略)

そう、私は今、長年掲げてきた「批評家」という看板を下ろそうとしている。いや、実際にはもう下ろしたのだが、言葉の綾的なタイムラグとして、どうかご容赦願いたい。

いうなれば私は批評王を退位したのである。やっぱり王を僭称してるじゃないか、と誹られそうだが、私は、もしかしたらほとんど私ひとりしかいなかったのかもしれない、批評というささやかな国の孤独な王として、これでもだいぶ頑張ったつもりなのである。

豪奢とは言えないが輝きを放っていないわけではない王冠を頭から取り去り、古ぼけた、だが座り心地の良い安楽椅子に腰掛けて、ふと後ろを振り返ってみたら、折々の機会に書かれ、どこかの媒体に発表されたきりの批評文が意外なほど沢山あることがわかった。

私はほんとうに、ずいぶんとよく働いてきたのである。自分でもちょっと驚いたくらいだ。これらを一冊に纏められないものだろうかと私は考え始めた。そして出来上がったのが本書である。…(後略)

                  序文 批評王の「遺言」 より

第2回に続く

佐々木 敦(ささき・あつし)
文筆家。1964年、愛知県名古屋市生まれ。ミニシアター勤務を経て、映画・音楽関連媒体への寄稿を開始。1995年、「HEADZ」を立ち上げ、CDリリース、音楽家招聘、コンサート、イベントなどの企画制作、雑誌刊行を手掛ける一方、映画、音楽、文芸、演劇、アート他、諸ジャンルを貫通する批評活動を行う。2001年以降、慶應義塾大学、武蔵野美術大学、東京藝術大学などの非常勤講師を務め、早稲田大学文学学術院客員教授やゲンロン「批評再生塾」主任講師などを歴任。2020年、小説『半睡』を発表。同年、文学ムック『ことばと』編集長に就任。批評関連著作は、『この映画を視ているのは誰か?』(作品社、2019)、『私は小説である』(幻戯書房、2019)、『アートートロジー:「芸術」の同語反復』(フィルムアート社、2019)、『小さな演劇の大きさについて』(Pヴァイン ele-king books、2020)、『これは小説ではない』(新潮社、2020)他多数。


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