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vol.3 桃山鈴子さんのイモムシ手帳拝見。脱皮したてのスギドクガの幼虫は…

「いま、スギドクガを飼育していて」
ある日の電話で、虫めづるイモムシ画家・桃山鈴子さんがうれしそうに教えてくれました。
「脱皮したばかりのスギドクガの幼虫って、毛がくるんくるんにカールしてるんですよ!」
「……そうなんですか〜」
としか返せない編集者の私。

とりあえず手元のイモムシ図鑑でスギドクガを確認してみると長い毛がまっすぐピンピン生えていて、さわると痛そうだなという感じです。
毛が、くるんくるんとは……?
というか、ドクガって大丈夫なのか……?
(※ドクガ科ですが、スギドクガには毒針毛はないとされています)

そこで今回は桃山さんの飼育観察手帳をチラ見せしてもらいました。
↓ぜひ拡大して細部までじっくりご覧ください。実際に飼育してみなければわからないことがいっぱいです。

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↑自分の毛を抜いてマユをつくるところを見たかったのに、ついに見せてくれなかったというのがなかなか神秘的です。

↓こちらは孵化したばかりの初齢幼虫を描いたもの。卵の直径1mm!

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↓飼育観察手帳の続き。拡大してご覧ください。

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脱皮直後の激しく踊るスギドクガの様子は、桃山さん撮影の動画をご覧ください(排水溝にからまった毛が突然こんな動きしたらどうしよう……)。 ↓リアルな虫の蠢きが苦手な方は閲覧注意です!

スギドクガと聞いても、最初はまったくイメージのわかなかった私ですが、これでもう一生、スギドクガのイモムシのことは忘れないと思います。
この飼育の記録を見ながら、桃山さんにいろいろ聞いてみました。

──マンションの非常階段でスギドクガの成虫に出会って卵をゲットしたとのことですが、こういう出会いはよくあるんですか?

桃山さん:そうですね、虫ってどこにでもいるんですよ。でも、いつどこで出会えるかはわからないんです。食草のある場所に行っていくら探しても見つからないこともあるし、ベランダの植物に産卵しにくる蝶もいるし。

──イモムシを飼育するうえで気をつけていることはありますか?

桃山さん:エサとなる食草はなるべく自分で栽培して、新鮮なものをあげるようにしています。今回のスギドクガも、絵日記に書いたように杉の実生を鉢植えにしてその杉の葉を与えて飼育しました。
あと、私はイモムシを肌に這わせたりするのが好きなのですが、我慢してなるべく触らないようしています。

──刺されないように?

桃山さん:いえ、皮脂をイモムシにつけないようにです。イモムシは体の側面にある気門で呼吸しているので、そこに脂がつくと呼吸を阻害してしまうんです。飼っているイモムシを古い食草から新しい食草に移すときは、筆の先端に乗せて移動させています。

──あくまでもイモムシファーストですね。
スギドクガには毒針毛はないそうですが、今回は少しかぶれてしまったとか。大丈夫ですか?

桃山さん:もともと私、肌が弱いんです……。

──それなのにドクガ科やイラガ科のイモムシを果敢に描いてますよね。

桃山さん:実はむかし、チャドクガに全身を刺されたことがあります。

──チャドクガってめちゃくちゃやばいやつ! どうしてそんなことに。

桃山さん:造園会社で働いてたとき、チャドクガが大発生して駆除に行ったんです。肌を出さないようにしっかりガードして殺虫剤を噴霧器で散布していたんですが、いつの間にか、目に見えない細かい毛が服の中に入っていたみたいです。体じゅうボコボコにされました。あれに比べたらスギドクガなんてかわいいものです。

最後の最後に強烈なエピソードを聞いてしまいましたが、飼育の甲斐あって桃山さんの美麗なスギドクガ展開図、完成しました。
2021年春、工作舎から刊行予定の作品集に収録されますのでお楽しみに。

桃山さんのインスタグラムでもご覧いただけます。

桃山鈴子さんプロフィール
東京生まれ。虫の飼育は小学生時代から。大学時代に生物学の授業で顕微鏡を使った観察スケッチを学んだことが絵の原点に。理系と文系、自然科学とアートの境界を自由に飛び回る表現を志している。
イラストレーション青山塾ベーシック科21期。NPO法人日本アンリ・ファーブル会会員。日本蛾類学会会員。ペンスチ所属。
HBギャラリーファイルコンペvol.29藤枝リュウジ賞
ギャラリーハウスMAYA装画コンペvol.19準グランプリ
Society of Illustrators-Illustrators 62入選

これまでのイモムシ本制作記はこちらからどうぞ。


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