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vol.1 イモムシ選抜戦! これさえうまくいけば本はできたも同じ(?)


虫めづるイモムシ画家・桃山鈴子さんの作品集。
2021年春刊行に向けて、だんだんと全体構成が進んできました。前回の制作記はこちらをご覧ください。

画集や写真集などビジュアルが主役の本をつくるときに、大事な仕事は2つあります。
1. どの作品を載せるか選ぶこと。
2. 作品を美しく印刷表現すること。

2つめのほうは、主にデザイナーやアートディレクターの領分です。製版オペレーターや印刷会社の技術と経験に拠るところも大きいです。
桃山さんの絵は、アルシュという水彩紙にアクリルインクとペンで丹念に描かれています。それをたった4色の印刷インキで大量印刷するのですから、もちろん原画そのままの再現とはなりません。
桃山さんの世界観が印刷を通してきちんと伝わるように、印刷物として美しい設計(デザイン)をしていきたいと思います。

まあ印刷についての話は、これから制作が進んできてから、工作舎のデザイナーにがっつり語ってもらうとして……
今は1つめの、作品選びの段階です。

どの作品を載せるか選ぶこと。
もう少し詳しくいうと、作品を選んで、それをどう並べるか決めること。
これが画集や写真集をつくるときの最初の大仕事です。というか、これさえうまくいけば、その本は完成したも同然です!
まずはここを突破しなくてはいけません。
というわけで桃山さんから全作品ポートフォリオをお預かりしました。

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めくってもめくってもイモムシ(ときどき成虫や他の虫も)。
桃山さんがイモムシを描き始めた2009年から、最新の2020年の作品も合わせると、200点以上の作品が収められています。イモムシだけでなく、卵から成虫までの変態を追った観察スケッチ風の作品や、モノクロの山水画風まで、どれも魅力的です。

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「これ、このまま本にすればいいんじゃないか……?」とうっかり思ってしまいますが、制作費のことを考えて気を取り直します。
ポートフォリオはすでに桃山さん自身が作品カテゴリー別に分けているので、大まかな構成はそれをほぼ踏襲する形でいけそうです。ページ数と、章立てと、載せられる作品の点数をある程度決めてから、まずは桃山さんに作家目線で第一次選考をお願いしました。

桃山さんはご自分でZINEを制作されてきたこともあって、バランスよく選んでくれました。
そこからさらに編集者としてポートフォリオを見直していきました。桃山さんが選んだ作品以外にも、気になる作品を拾っていきます。
このイモムシはピンで勝負できるやつだ」という風格のあるセンター級のイモムシは問題なく決まるのですが、当落ぎりぎりのイモムシたちは本当に悩ましい。ちょっと見は地味でもポテトサラダみたいな良さのあるイモムシも入れておきたいし、同じ種類のイモムシとサナギを一緒に並べるのも面白そうです。

ひとつひとつ見ているとだんだん迷い始めるので、ポートフォリオのファイルから外した一枚一枚を、大きな机の上にバーっと並べて眺めてみます。

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「多様性……!」という言葉しか出てきません。
本当にいろんなイモムシがいます。

虫の名前に気をつけて見ていくと、「このイモムシとこのイモムシが同じ種類の虫だったのか!」と、いまさらながら気づきます。
たとえば下のイモムシは、別々の個体ですがどちらもクロアゲハ。右が若齢虫で、左がサナギになる前の終齢虫だそうです。

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さて、今は桃山さんの一次選考をベースに、編集者の提案も入れたページ構成をつくり終えたところです。これからさらにセレクトを重ねて、本に入れるイモムシたちを決めていきます。
ZINE未掲載の作品や、現在制作中の新作も入る予定ですのでお楽しみに!

桃山鈴子さんプロフィール
東京生まれ。虫の飼育は小学生時代から。大学時代に生物学の授業で顕微鏡を使った観察スケッチを学んだことが絵の原点に。理系と文系、自然科学とアートの境界を自由に飛び回る表現を志している。
イラストレーション青山塾ベーシック科21期。NPO法人日本アンリ・ファーブル会会員。日本蛾類学会会員。ペンスチ所属。
HBギャラリーファイルコンペvol.29藤枝リュウジ賞
ギャラリーハウスMAYA装画コンペvol.19準グランプリ
Society of Illustrators-Illustrators 62入選

桃山さんの昆活絵日記もおすすめです。



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