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ぎっくり腰になる家 

 ぎっくり腰は、魔女の一撃と言われ、ある日突然何気ない動作で腰に痛みが走るつらい症状ですね。ぎっくり腰までいかなくても腰痛で悩んでおられる方は多いのではないでしょうか。外傷や病気などを除くと、長年のくせで、少しずつ小さな負荷がかかり、意識しない間に体の組織の耐性を低下させ、ある時の何気ない小さな負荷で組織が痛んでしまい痛みとして出現します。腰痛は痛みが出たその瞬間に問題があると考えがちですが、実はそれまでに蓄積していった結果の痛みであることが多いのです。

 つまりはその方の長年の動きのくせにあることが多く、ご本人の動き方のくせだけでなく、家具の配置や収納方法が影響していることがあります。家づくりをされるとき、片付けや整理整頓されるときに、この配置やこの収納方法は腰にやさしいだろうか、と考えたことはありますでしょうか。

 重いものを無理して持ち上げたら腰に悪そうだ、というのは感覚的に理解できる方が多いと思います。職場における腰痛予防対策指針で、常時人⼒のみにより取り扱う重量は、満18歳以上の男性 の場合、体重のおおむね40%以下、⼥性は24%以下と定められているように、腰椎の耐えられる重量は物理的な限界があります。もちろん腰を痛めている方はこれ以下になります。

 盲点になるのが、手を伸ばして何かを取ろうとした時、前かがみで何かをしていて起き上がる時、など特に重いものを取り扱っているわけでもないのにぎっくり腰になるパターンです。上記の重量基準はあくまでも腰の近くで扱った場合であって、腰(支点)から離れたところで扱うと、てこの長さ(手の長さ・体幹の長さ)が長くなる分、腰への負担が増大するのです。手を伸ばして取る、前かがみの姿勢で作業する、そこに少し重みが加わるだけで腰への負担は格段に増すことになります。

 片づけをしていてよく見かけるのが、収納(食器棚や本棚)の前に物を置いていたり、電気スイッチの前に物が置いてある状態です。その収納の前に置いているものだけを使うのであればよいのですが、その収納のものを使う場合や、そこに家電を置いておられる場合、離れたところから手を伸ばし作業することになります。1回や2回そういうことをしたからと言ってたちまちぎっくり腰にはなりません、しかし、確実に蓄積しているので、お聞きすると腰や肩を痛めていることが多いです。

 また、高いところに収納する場合、上に重たいものをのせたら落ちてきたら危ない、という意識はあっても、腰から離れているから腰を痛めるかも、という発想にはなりにくく、腰が痛いのに高いところのものを頻繁に出し入れしている状態も見ます。腰から離れたところで作業することで腰への負担は増大します。身長が高くないのに冷蔵庫の上にレンジを置き、そこから温めたものを取る時にぎっくり腰になった方もおられます。
 手を上にあげると重心も上へあがり、もともと立位バランスの悪い人は、手をあげることでさらにバランスを崩し、転倒することは本当によくあります。電球の交換をしようと思って脚立に乗って手を伸ばしたところで後方に落下→骨折は、年に1回くらい聞きます。すべての電球を一生変えなくていいLEDに変えましょう。

 あとは、前かがみです。家の中で前かがみにならないと作業できない場面はないでしょうか。膝や股関節を曲げずに前かがみになる姿勢は腰から上の体の重みが、全て腰(支点)にかかるため、腰への負担が増大します。低すぎる洗面台、遠い水栓(手を伸ばさないと届かない)、食器洗いの姿勢がこの悪い前かがみになっている、低い収納によく使うものを入れている、など、腰の負担が増大する場面はひそんでいます。

 腰から肩までが収納のゴールデンゾーンという表現はよく聞きますが、高さだけでなく、そこに近づくことができるか、足の動きを邪魔しないかどうかも重要なポイントになってきます。もちろん人間側の動きを気をつけることで防げることもたくさんありますが(今回は割愛します)、クリニックや介護施設など体が不自由な人が使う想定の環境では十分配慮してもらいたいと思います。
また、今はお元気でも、新たに家を作る方、収納を新しく購入しようという方はぜひ頭の片隅に置いてもらえたらと思います。


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