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不妊治療の保険適用でどうなる? 〜当事者編・企業編〜

こんにちは、コウノトリBenefitという「妊活と仕事の両立支援ソリューション」を企業向けに提供しています、株式会社メデタの伊藤です。

"頑張る従業員をサポートしたい人事/経営者"と"妊活・不妊治療の当事者"の両方の橋渡し役に私たちがなろう、というのが事業コンセプトなので、二者それぞれの目線に立って書くのがこのnoteです。


不妊治療を公的医療保険適用に

不妊治療の領域では、今月に入って連続して大きなニュースが飛び込んできました。その中でも大きかったのがこちら。 ​


管政権の中で特に大きな政策と言われていた不妊治療者に対する国の支援が動き出しているというニュース。記事によると2022年春に正式に公的医療保険適用をスタートする見込みとのことです。

これまで自由診療だった不妊治療が公的医療保険適用になることで、当事者・企業(経営者/人事)・健康保険組合・クリニックといった立場の人に大きな影響を与えることでしょう。

重要なのは保険適用の対象者の設定をどうするか、どこからどこまで適用になるのかというところで、そこは今も議論が続けられています。

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今日は、現状メディアでリリースされていることの範囲の中で、どんな影響があるのかを予想して書いてみようと思います。

なお、先にお伝えしておくと、保険適用についても(なんなら不妊治療に関しても)まだ世の中的にわかっていることは多くないので、「あくまで今の時点でわかっていることの範囲で」「私の考え」を書かせていただきます。


不妊治療の当事者(やこれから治療する方)は、保険適用でどうなる?


まず、一番のペイン(痛み)を抱えている当事者についてです。言うまでもなく国の政策もこちらを第一に考えるべきでしょう。政治や利権のせいで当事者の負担が増大するなんてことはあってはいけません。これは国もわかっている中で慎重な議論・検討がなされているようです。

当たり前のことですが、保険適用によって当事者やその予備軍の方々の「経済的な負担は大幅に軽減される」と言うことになるでしょう。

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具体的なケースで考えてみます。先述のニュースの内容にある、日本生殖医学会が分類した推奨レベルA(強く推奨)の中で、例えば体外受精に関わる全てが保険適用になったとしましょう。

上記の記事で平均50万円の費用との調査(2021,厚生労働省の調査)がある体外受精は3割負担の15万円で受けれるようになるということです。これは大きいですね…。



私と私の妻も、前回の体外受精でトータル60万くらい使っているのでその負担が大きく減るとなると、「お金がかからなくて済む」と思うのと同時に、「(同じ費用での)可能性が3倍になる」と私は解釈しました。

体外受精の成功率は年齢によっても差がありますが、1移植あたりおおよそ30%と言われているので、数字上は3回移植すれば1回妊娠する計算です。

今回の保険適用で、当事者やこれから治療をされる方々にとっては経済的負担が減り、「可能性」が広がるというのは間違いないでしょう。


ただし「エビデンスが少ない治療」「絶対数が少ない症例」は保険適用からあぶれる可能性


一方で問題になるのは、エビデンスが不十分とされていることや、絶対数が少ない症例は今回の保険適用対象となる範囲からあぶれてしまい、結果的にそこの治療がこれまで以上に高額になる可能性があるということです。

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例えば、私も経験しており、"妊活の最終手段"とも言われる「顕微授精」という手法については、政府からのリリースには詳細がまだ発表されていません。(議論が体外受精に含まれているのでしょうか…?)

また、不妊治療の要因の約50%を占める男性不妊への適用についても記事の中では勃起障害に関する記述しかありません。(私が経験したのは保険適用外の術式の精索静脈瘤手術です)

他にも、今回の保険適用は43歳未満をベースに議論されており、43歳以上の方々は適用範囲外となる可能性が高いという記事も出ていました。


まだ委員会で検討中なのかもしれませんが、保険適用の対象からあぶれてしまった当事者に対してどんな支援をするのか、あるいはそもそも不妊治療の高度化や長期化を防ぐためにどんな政策を打つのか、という根本解決の視点の議論がどうなるのか、今後の動きとして個人的には注目しています。


企業の従業員向け支援は、保険適用でどうなる?

さて、今度は企業側です。不妊治療と仕事の両立が難しいのはこれまでの記事でもお話ししてきました。


詳しくは上記リンク先の「不妊治療と仕事の両立サポートハンドブック」(厚生労働省発行)を参照いただければと思いますが、不妊治療によって仕事を諦めてしまう方の割合はかなりの数で、実に全従業員の5.3%(!)が両立できずに仕事を辞めるなどの選択を取ってしまうと試算できます。( *1)

これは企業にとっても無縁ではないだろう、ということで海外では不妊治療支援パッケージを企業に提供している会社があったり、国内でも事例が少しずつ出てきています。



それでは、企業が従業員に行う支援について今回の保険適用はどのような影響を与えるのでしょうか?(なお、健康保険組合についてはまた別で書こうと思うので今回は企業の話を書きます)

結論から言うと、「経済的側面以外の取り組みの必要性が増す」ひいては「"なぜ取り組むのか"を議論する必要がこれまで以上に出てくる」と私は考えています。



そもそも不妊治療と仕事の両立が当事者にとって何が大変かというと、①経済的側面(お金や時間がめちゃくちゃかかる)、②仕事的側面(仕事しながらの治療が身体的にきつい)、③精神的側面(周りの目などメンタルがきつい)の3つに大別されます。

そのうち①が国によって支援されて負担が軽減するとすると、②仕事的側面、③精神的側面が企業ができることとして比重が相対的に大きくなります。


日経で掲載されていたデータを引用させていただきます。

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このデータを見てわかる通り、企業が従業員の不妊治療に対して①経済的側面以外のサポートをする場合、職場の理解・風土といったいわば"見えないもの"に対する期待が大きいことがわかります。

そうすると、金銭の補助や休暇制度と同様に「メンタルサポートをしよう」「研修をしよう」という、対処療法・つぎはぎ的な施策ではきっとうまくいきません。

そうではなく、目的を明確に定めた複合的な施策を持って、中長期的に会社の変化を起こしていくことが今後求められていくのではないでしょうか?



まとめると、私が「保険適用によって企業は何をすればいいの?」という質問を聞かれた時には、「何をしたから従業員が救われる、というのはないので、まず自社に何のためにこの領域をやるのか?を考えましょう」と、あえて遠回りな答えをお出ししています。


企業の両立支援の究極のゴールは、多様性を受け入れるための風土醸成・キャリア開発


私が不妊治療に対する企業側からの支援の話を企業の方としていると、「メルカリみたいな予算取れないよ・・・」「福利厚生は全員向けじゃないと・・・」という目に見える施策や対処、つまり”How”の議論になることが非常に多くあります。

しかし繰り返しになりますが、目に見えないものを扱う以上、大事なのはWhy、つまり目的だと私は考えています。

究極を言えば、不妊治療と仕事の両立支援における企業の目的・ゴールは、研修をやることでも休暇をつくることでもなく、「不妊治療者(やその他のハンデを抱えた人)であっても活躍できる風土を醸成すること」や、「従業員の置かれた状況や価値観に合わせたキャリア開発」に向けられるべきではないでしょうか?

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つまり、保険適用によって、企業として不妊治療と仕事の両立支援を行う際のベクトル(目的・目標)は、治療者という"弱者"を保護することではなく、風土醸成やキャリア開発などの「企業の競争戦略」に向いていくと私は考えています。

そしてこれは属性・価値観・違いがある人を受け入れ企業の競争優位の源泉にしようという、今まさに巷で言われている、ダイバーシティ&インクルージョンとイコールではないでしょうか。


D&Iの文脈での問い合わせも増えています


そういった中で、最後に宣伝も兼ねた締めの文章です。

7/4に不妊治療の公的保険適用がニュースになってから、企業様から問い合わせをいただくことが増えました。

もちろん「これって企業はどうしたらいい?」「来春に向けた他社の動きはどう?」と目の前の対策に伴う話も多いのですが、「今取り組んでいるダイバーシティの文脈で、改めて考えてみたい」といった、長期的な施策として問い合わせをいただく機会がとても増えました。

これは、「ダイバーシティマネジメント」を大学時代研究し続けて、会社の理念も「"はたらく幸せ"と "家族をつくる幸せ"の両立」においている私個人としてはとても嬉しいことだと思っています。



人事の方向けに「不妊治療と仕事の両立支援」について、自社でどう取り組んでいくかの勉強会なども開催していますので、もしご興味あれば私のメール(shingo.itoh@kounotori-benefit.com)までぜひお問い合わせください。


↓先日ある大手企業様で人事向けの勉強会を開催した時の様子

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↓勉強会のアンケート

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コウノトリBenefit(株式会社メデタ)
伊藤慎悟
shingo.itoh@kounotori-benefit.com




脚注

*1 
婚姻率83.5%(厚生労働白書)×不妊検査・治療経験率18.2%×両立を諦めてしまった方の割合34.7%=不妊治療による退職リスクを全社員の5.3%と算出





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