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“きらめいたラメとか塗ったりなんかして今日もなんとか生き抜いた”

旅先であろう街を背景に、ドアップで写った女の子の顔。
その表紙を見たとき、気づけば手を伸ばし、中をパラパラとのぞいていた。

それが彼女との出会いだったかもしれない。

彼女の名は「すすすすみれんこーん」。

音を切る位置にいまだに迷う。

宮崎市で毎年1回行われているZINEのイベント「Zine it!」。
数年前、その会場のテーブルに並べられた数多のZINEのなか、その「彼女」を見つけた。

『Renkon’s ZINE』というタイトルのZINE。
家庭にもあるようなA4のプリント紙に印刷され、ホチキスとマスキングテープで接着された手づくり感の溢れた一冊。写ルンですで撮られた風景や自撮り写真、友人たちとの日常が紙いっぱいに刷られていた。記憶を強く練り込むように紙の裏側まで浸透したインク。

そんななかで、数少ないながらも紡がれた言葉たちがところどころへ差し挟まれる。

大雨のときに限って会うんなら口紅くらいつけときゃ良かった

『Renkon’s ZINE』

その世界観にやられて買ってしまうのだった。
写真の組み合わせ方もそうだけれど、言葉のチョイスがおもしろい。こんな人が同じまちにもいるんだなと発見できたことを嬉しく思っていた。

「すすすすみれんこーん」という名前、どこかで見たことあるなあ、そういえばSNSのおすすめに流れてくるアカウントにそんな名前がいたような…。
どこかですれ違っているのだろうし、どこか同じ場にいたこともあるのだろう。生息圏を共有していながらも決して出会うことも知り合うこともないのが「まち」のおもしろさでもあるなあとふと思う。

翌年、翌々年のZine it!でもすすすすみれんこーん(以下、めんどくさいので「すみれんこん」と記す)のZINEは出展されていた。しかも、単なるフォトポエムではなく写真 + 短歌へと変化していた。製本も印刷会社を経由していて「もう本じゃん!」って感じだった。


すすすすみれんこーんが2019年〜2022年までに発表したZINE

五・七・五・七・七へと変化をとげた言葉たちは、隙間が大きくて、感情がこれでもかと詰まっていた。叫び声のようなものもあれば、他人には聞こえないように囁くようなものまで。それらを読むたびにキュンキュンしている自分がいた。アラサーのお兄さんがキュンキュンってなんだよって感じもするが、キュンキュンって言葉がぴったりくるんだから仕方がない。

言葉を読み上げたときに降りてくるシーン。それがなんだか具体的過ぎて、そして生々しくて、自分の似たような記憶が蘇ってきたり。嬉しかったときのこと、舞い上がったときのこと、痛みを伴うこと。いろんなシーンを見てきたいろんな年齢の自分がそこにはいた。

ひとことで表すならば、エグい。彼女の言葉にはエグさがある。

3日間干されっぱなしの服たちがいちばん知ってる雲の流れ

泣いてる絵文字使えばいいと思うなよもっともっと救われたいよ

『ちょっとだけスキなきみへ』

すみれんこんの詠む歌は、散文的で形式ばってもいなく、天真爛漫な雰囲気を受ける。

それこそ、不意に出てきたのであろう言葉たちとその編まれ方は、どこかJ-POPの歌詞のようでもあり、ドキッとすることもある(実際に歌詞を提供したこともあるようです)。

女の子ってこんな気持ちなのかもしれない、と自分の恋来遍歴を思い返しながらいろいろ反省したり、でも男性としてもその気持ちはめっちゃわかると共感したり。短歌だけでなく、すみれんこんの書いたエッセイや長文も読んでみたい。どんな文章になるのだろうと想像するとワクワクする。

ひょんなことからすみれんこん本人とも会う機会があった。そのときの話だと、初代『Renkon’s ZINE』を買ったのは僕一人か、僕と誰かくらいだったらしい。それはかなり意外なことだった。どこかで復刊しないかな。

ジワジワとすみれんこんの活動も周知されるようになって、いつの間にか文芸誌『文学と汗』に短歌を寄稿するようになり、演劇にも出演するようになり、なんなら街中の定食屋さんでも働くようになっていた。そんなふうに環境が次々と変化するなかから紡ぎ出される短歌はどんなものになるのだろう。いつかまたつくられる新しいZINE、そこにある写真と言葉の迫り来る強度、今度はどうなっているのだろう。

不意にすすすすみれんこーんのことをちゃんとまとめたくなった週末の夜。
個人的な感情から出てくるエグい言葉は、共感ありきの狙った言葉と違って普遍性を持つし、性別も年齢も超えて心を射抜く力があるなと思った。

自分もそういう素直な言葉で叫ばなきゃなあ。
心が腐ってしまう前に。

※タイトルはすすすすみれんこーん作『Renkon's ZINE』2作目より引用しました


(告知)

5月7日(日)16:00〜 GWの最終日に東京は大森町駅(京急線)高架下で開催される「EDIT LOCAL ZINE FES」。
そちらに宮崎から、すすすすみれんこーんのフォト歌集『ちょっとだけスキなきみへ』がポップアップ内に並びます。

『ちょっとだけスキなきみへ』

気になる方はぜひお手にとってみてください。
フェスの詳細、会場の詳細はCO-Valleyのサイトをご覧ください。

【日時・場所】
5月07日 15:00 – 23:00 
CO-valley, 〒143-0015 東京都大田区大森西5丁目10−16

【About:Edit local zine fes】
地域を越えて、これからの時代のメディアやまちづくりをみんなで一緒に考えたい。
そんな想いで作られたのが“まちを編集する”人々をつなぐ研究所「EDIT LOCAL LABORATORY」。
「Edit local zine fes」は、Edit local lab.のメンバーが主体となってつくりあげるお祭りです。AI技術の発展とwebメディアが台頭するこれからの時代においてメディアやまちづくりはどんな方向に向かっていくのでしょうか?Edit local zine fesでは、バーチャルとは真逆ともいえるZINE作りの「DIYマインド」「リアルな体感」をキーワードとしたコンテンツをご用意しました。

屋外のブースでは、日本各地で作られているzineの展示販売、飲食、物販、ものづくりワークショップゾーン。
室内では16:00-21:00の間に「Edit local radio」と題した、全員参加型のトークイベント&DIYミュージックライブが実施されます!
バーチャルとは無縁な「DIYマインド」と「手触りのローカルメディア」を体感しに来ませんか?

【日時・料金】
5/7(日)16:00〜22:00(入退場自由)
※5/7 9:40追記。雨天のため準備等の関係で16:00開始となるようです
入場料:無料
music charge : 500円

【場所】
CO-valley(大森町駅から徒歩1分のひみつ基地)
住所:大田区大森西5-10-16(の真向かい)
京急線大森町駅より徒歩1分です。
最寄駅は、大森駅、大森海岸駅ではありません!「大森町駅」なのでお気をつけて、いらしてください。

◯ZINE POP UP
・Edit local lab.
・武蔵大学zine salon
・さとうかい/SHOE MEAN DUCK
・THE INDEPENDENT SARDINE

◯BOOKS POP UP
・アラマホシ書房
・未知の駅

◯SPECIAL STAND
・途中でやめる
・田中農園

◯Food & Drinks
・喫茶おおねこ
・クナーファ屋
・Curry Jockey
・CO-valley

◯Workshop
・ご当地かるた道場(ヤマノカゼ舎・嵯峨創平)
・ZINE作り体験(武蔵大学zine salon)
・Zine Book Styling(大正大学)
・シルクスクリーン工房(大正大学)

◯Music
・TAISHIN体操
・虫ぼっち
協力:街のゆうちゃんゼミ
(大正大学)

【Edit local radio time table】
16:00 CO-valley×喫茶おおねこ×クナーファ屋 talk
16:30 アラマホシ書房 talk
17:00 DJ TAISHIN体操(ミュージック)
18:00 THE INDEPENDENT SARDINE talk
18:30 影山下ラジオ talk
19:30 さとうかい/SHOE MEAN DUCK talk
20:00 虫ぼっち(ミュージック)
21:00 武蔵大学 talk
22:00 end

※ EDIT LOCAL LAB.会員はドリンク一杯無料
入会についてはEDIT LOCALのホームページをチェックしてください。

主催 : EDIT LOCAL lab.


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