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ユーモアとこだわりを忘れず。有機栽培の茶園でいただいた一番茶

 今は新鮮な一番茶が売り場に並ぶ時期ですね。
 さっぱりとした、おいしいお茶が飲める季節。

 緊急事態宣言も公には解除されたとはいえ、地域によるとは思いますがまだまだ外出に気を遣いますね。これまでと変わらず神経を張り詰め、緊張してしまう。少しでも気を緩めるためにお茶をいただくのもありではないでしょうか。

 先日、一番茶を製造する場面を見学させていただきました。
 今回はそのレポートを記します。


メッセージは突然に

「ハンダさん! 時間があるならぜひド田舎に来ませんか? お茶の製造見学に!」

 ゴールデンウィークも終わりのある日、こちらが暇をしているのを察したかのように知り合いのお茶農家さんからメッセージが来ました。実はお茶の製造過程を見学させてくださいよ〜と前々から伝えておきながら、新型コロナウイルスの影響下で気軽に訪ねることができずにいました。

 僕の暮らす宮崎県では4月11日に17例目の感染確認を最後に感染者が出ていない状態(5月29日現在も変わらず)。それから1ヶ月経ったタイミングでの連絡。警戒する空気は漂っていましたし、「不要不急ではないか」と詰問されると「うーむ」と腕組みをしてしまうところがありますが、ソーシャルディスタンスを確保でき、風通しも良好すぎる場所なので、自分でできる対策を十分にとったうえで訪問しました。


宮崎市高岡町の一里山を訪れる


 僕が向かったのは宮崎市高岡町。高岡町は「ビタミンの父」としても称される高木兼寛の出身地。それに象徴されるように高岡町は柑橘類の生産が盛ん。なかでも高岡町でしか栽培されない「高岡文旦」は特産品として町をあげてPRされています。そのほか、畜産、酪農、お茶などの生産も同様に盛んです。

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 高岡町のずっと奥には一里山という地区があります。山の上に広がる平地。辺り一面は見渡す限りお茶畑。その先には霧島連山も眺めることができます。空と大地の広さよ、思わずため息がもれてしまいます。部屋に引きこもる日々が続いていたので思いっきり腕を伸ばして深呼吸。「地球に生まれて良かったーーー!!!」ばりに自然の息吹を体に集める。 


有機栽培のお茶農家 提石製茶

 僕が訪れたのは、そんな一里山にある提石製茶。ここはお茶の栽培と加工を行っています。ちなみにお茶はすべて有機栽培なんです。

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 僕を誘ってくれたのはこの農園の代表である提石正男さん。会うたびにニコニコと出迎えてくれて、ユーモア溢れる冗談をいつも口にしています(冗談を真に受けやすい僕は、冗談と気づかずにいることもしばしば)。そこにすかさずツッコミをいれる奥様の孝子さん。お二人の掛け合いがこれまた絶妙で。僕はここを訪れるたびに、その様子を見ていて出していただいたお茶を飲む前から和んでしまいます。もちろん、お茶もしっかりいただいて再度和むんですが。

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 提石さんとの出会いは前職での商品開発がきっかけでした。
 特産品である高岡文旦を使ってブレンド茶ができないか、それも地元である高岡町内のお茶農家さんの手によって。すでにさまざまなお茶商品を世に出していた提石製茶さんに相談をしたところ二つ返事で了承。あれよあれよと開発は進み、「高岡文旦フレーバーティ」としてデビューしました。

 このときの担当が僕だったため、連絡をとる回数も農園を訪れる回数も自然と多くなっていき、そのご縁ゆえ仕事を辞した今でもたまにメッセージのやりとりをしています。

 提石さんはお茶の魅力を知ってもらおうと、卸先のお店と協力して農園体験ツアーや茶育にも取り組んでいます。消費者に売り場に陳列されている商品やその中身のみでは伝わらない裏側の部分を知ってもらう。どういう人たちが生産に関わっていて、どういう工程を経て商品化されるのか。今までなんとなく習慣的にお茶を飲んでいただけだったのが、背景やストーリーを知ることで少し変わってくる。そこからお茶の楽しみ方、嗜み方、関係する道具・器など、興味の幅が広がっていくもの。 

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 お茶の製造過程を見ることができる機会なんて滅多にない。しかも今年の一番茶として出荷されるお茶の製造を。それを自分一人だけで堪能できるんですから。にわか知識しかない僕がそんなセレブリティな待遇を受けてなんかすいませんって感じで楽しみました。


お茶の門外男がお茶の魅力に浸かっていく


 そもそも、僕はお茶の知識なんて皆無でした。なにせ緑茶・紅茶・烏龍茶がすべて同じお茶の樹の葉っぱ(新芽)だということを知らなかったんですから! それこそ、何も気にせず習慣的に飲んでいるという状態だったので、〇〇産のものがおいしい、〇〇な淹れ方をするとおいしいと言われてもピンとこないことがほとんどだったのです。「へぇ〜」「ふ〜ん」「そーなんですねぇ…」という常套句を繰り返してその場をしのいでいました。

 それが前職で地域の資源を活かした商品開発を行ったり、さまざまな地域を取材で訪れ現地の人々と接しているうちに認識が変わってきました。

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 宮崎は全国的にもお茶の産地として有名で、もともと歴史的にも家の軒先で育てたお茶を釜炒り茶として飲む習慣があり、今でも都市部を離れればそうしたライフスタイルが残っている場所もあります。自分とは異なる文化や習慣を持つ人々と交流するなかで、お茶の認識が少しずつ変わる経験をしてきました。ただのお茶が、ただのお茶でなくなる……。下手くそな表現ですが、自分の頭の中のお茶のイメージが脱構築されると言いましょうか、お茶を楽しめるようにもなっていたのです。

 実際、熟知された方が淹れてくれるお茶の味は、実家やオフィスで出てくる(あるいは自分が淹れる)お茶の味と違って、うまい。初めて提石製茶を訪れたときにいただいたお茶もほんとうにおいしかった。

 とは言ってもまだまだにわか。詳しい方や生産に関わる方と話をしていて「へぇ〜」「ふ〜ん」「そーなんですねぇ…」がついつい出てしまうことも。

煎茶の製造で大事なのは揉みと蒸し

 閑話休題。話をお茶の製造見学に話を戻して。
 お茶が大好きな人にとってはヨダレものでしょう。正男さんに「さあどうぞ」と促されるままに工場へ潜入。

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 僕が見させていただいたのは摘みたての茶葉を加工する荒茶製造。畑で摘まれてきた茶葉は発酵が進んでいくので、すぐに加工に回されます。蒸して揉んで乾燥させ、荒茶をつくります。荒茶は、僕らがふだん馴染んでいるお茶と比べ、茶葉の形が不揃いなため、どちらかというと一時加工の意味合いが強く、問屋さんに渡されることで二次加工され、僕らのよく知る商品になっていきます。

 お茶の製造は「蒸し」作業と「揉み」作業の二つが肝。
 この工程がどのようになるかでお茶が大きく変化してきます。蒸し時間の違いで浅蒸し茶や深蒸し茶とできるお茶が変わり、揉みの仕方によっても品質が変わってくる。

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 揉みの工程も一つではなく、粗揉(そじゅう)、揉捻(じゅうねん)、中揉(ちゅうじゅう)、精揉(せいじゅう)といった具合に複数あります。ただ揉むだけじゃないんですね……と思わず言葉がもれます。現在は複数の機械によってこの作業が行われていますが、かつてはすべて人の手によって行われていたとするならば、その労力は計り知れません。

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「ユーモア」と「こだわり」に元気をもらう


 休憩のときに先日製造したという一番茶をいただきました。
 
「この高さから落とせばしずくがいい感じに撮れますよ」

 とここでもユーモアを忘れない正男さん。

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 淹れていただいたお茶を一緒にいただいきます。
 いやあ、ほんとにおいしいです。晴天、気持ちいい風、爽快な景色、そしておいしいお茶ですよ。言うことはありません。

 提石ご夫婦の淹れるお茶がほんとうにおいしいのは何度も経験しているのですが、つくり手のこだわりでしょうか「まだまだおいしくなる」とご本人のなかでは100点ではないよう(自信があるときは「うん! うまい! ハンダさん、これはうまい!」とグイグイ勧めてきます笑)。十分過ぎるほどおいしいのですが、僕の舌はまだまだ未熟なようです。

 お茶へのこだわりはこれまでの取材やイベントでご一緒したときに肌で感じましたし、直にご指導いただきました笑 とくにお湯の温度には細心の注意をと。

 この日いただいた煎茶を後日淹れてみました。おそらく以前に比べてたらおいしくなっているとは思いましたが、まだまだ師匠の境地には至らない、白帯の心地です。

 この日僕は一人で製造現場をのぞかせていただくというVIP待遇を受けたおかげで、正男さんにべったりとくっつき、お茶のこと機械のことなどたくさん質問することができました。お茶の生産から加工までそこにかける労力は大変なものがあるはずなんですが(ましてやコロナ禍においてはなおさら)、そこをすべてユーモアで明るく返してくる姿を見ていて励まされます。このとき、コロナ時代に大切なのは「ユーモア」と「こだわり」かもしれないと、フッとそんな言葉が頭に浮かびました。嘆くようなこともあるけれど、クヨクヨばかりもしていられない。そして、自分が大切にしたいこと、磨き上げていきたいこと、“本物”と信じていることを突き詰めること。そんなことが大事だなと。

 さて、今後お茶に関わる現場を見ることができるのであれば、次はここで一次加工された荒茶たちが卸先の方々によってどのように商品化されるのか、その工程を見てみたいですね。

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