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私は豊かなる空洞であり続けたい

私のライターとしての実績が7年以上になったころから、情報伝達のための記事だけでなく、コラムニストとして自分の意見や個性を出した記事の執筆も求められるようになりました。

このことを喜びと感じる人も多いでしょう。文筆業で成功したいなら、そうあったほうが好ましいのかもしれません。ただ私は、仕事で自分の個性を出すことを「しんどい」と感じてしまいました。

個性を出さなくてもよい仕事に出会えて

介護が終わり自由に活動できるようになった私には、インタビュー取材の依頼も増えていました。
「インタビュイーに思う存分話していただくにはどうしたらいいか?」
「その方の個性を文章に反映するにはどうしたらいいか?」
と考えて記事を書くことは、とても私に合っていると感じました。

2008年ごろだったと記憶していますが、私は「無用の用」という教えに出会いました。中国の思想家である老子や荘子が唱えたともいわれている、かなり奥の深い教えです。
ゆえに、一言で説明するのは難しいのですが、私が惹かれたのは次のような考え方です。

たとえばお皿や湯呑、花瓶のようなものは、自分自身の中に「空」の部分を持っています。たんにぽかっと空いているだけの部分があるからこそ、料理や飲み物、花などを受け入れ、それらの個性を際立たせることができます。このことは、家という空間にも言えることです。また、肺や腸など私たちの内臓も空いている部分があるからこそ、空気や食べ物を受け入れることができるのです。

単なる虚空ではなく豊かな空洞として

ライターとして、フリーランス・個人事業主として、自分自身を充実させ、カリスマ性を発揮して他の人を巻き込んでいく、個性を発揮して多くの人に注目されるという生き方もあるでしょう。

でも、私に向いているのは「自分自身の個性を発揮するより、他の人の個性や考えを受け入れ、それを引き立たせるための活動をする」という方法だと気づきました。

ただし「自分自身がただ空っぽであってよい」という意味ではありません。他の何かをできるだけ多く受け入れるために、空間を広げていくという努力は欠かせません。他の人の言葉をできるだけ理解するための勉強も必要だし、人の心の動きを読み取るための経験や実践、臨機応変さなども必要です。

単なる虚空ではなく、いろいろなことを飲み込みながら、それでも穏やかでいられる「豊かな空洞」であることが大切だと思っています。

自分でなんとかできないときは相手に合わせてみる

私にも、自分自身が挑戦してみたいこと、楽しいと思うこと、長く続けていきたいことがあります。やりたくて取り組んでいても、嫌な場面や気の合わない人に出会ってしまうことは、避けられません。

そのようなとき「自分がこの事態をなんとかしよう」と考えるのではなく、
「相手が意地悪になってしまう理由やきっかけはなんなのだろう?」
「人に嫌われてもそうせざるを得ない理由ってなんなのだろう?」
と相手に合わせる考え方が、少しずつできるようになりました。

「この人はこういう場面で意地悪をしがちだ」と気づいたら、その人が意地悪をしそうな場面を私が避けることができます。意地悪をさせなければ、その人は意地悪な人ではなくなります。

実際に、私がやりたいことに取り組んでいるなかで、出会った人とうまくいかない時期がありました。初めの1年ほどは「どうすれば許してもらえるだろう?」「どうすれば気に入ってもらえるだろう?」と、自分がなんとかすることばかり考えていました。でも1年を過ぎて諦め境地となり「この人が嫌なことを言いそうな場面を把握して、そうなる前に逃げよう」と決めました。それを1年ほど続けたら、あまり意地悪を言われなくなったのです。

相手がしてほしい仕事が自分にできることならやってみる

仕事でも「私はこういう仕事ができます。こういう仕事があればお声をかけてください!」とPRしていた時期もあり、それで一定のご依頼をいただいていたこともありました。でも「私の仕事はこれだ」と思いこんでいると、他のチャンスを逃すこともあります。

たとえば「簡単な図表でいいから作ってくれたら助かるんだけど」「手持ちのデジカメでいいから写真を撮ってくれたら助かるんだけど」という御依頼にも、自分にできることであれば引き受けていくようにしました。
だんだんと頼まれる仕事の範囲が広がり、講師やコンサルタントなどの仕事も手掛けるようになりました。

特にコンサルタントの仕事は、相談者の方のご希望をお聞きし、ご希望を叶えるための道のりを作るものです。私は「こうしたほうがいい、ああしたほうがいい」と指導するやり方ではなく、「ご相談様の希望を叶える」ことを最優先にし、希望を叶えるための道筋づくりに徹しています。

2022年前半の苦しかった時期を振り返ると

かくいう私にも、仕事や趣味などがうまくいかない時期はありました。2022年の前半はとても苦しかったです。

今、改めてその時期を振り返ると
「自分にできることはなんでもやって、自分でなんとかしなければ」
「自分を充実させ、自分にできることを増やさなければ」
「こんなに頑張っているのに、なぜわかってもらえない」
と、自分を中心に置いた考え方をしていました。自分の中身を何かで満たそうとしていたのです。

でも、ある時点で「自分では無理だ!」と開き直り、神様に「もう、どうにもならないです!」と祈るうちに、ようやく自分を中心に置いて頑張ろうとしすぎていたことに気づきました。

改めて「自分の中を空洞にし、相手が何をしてほしいのか、周囲が私にどういうことを求めているのか」という視点に立ったことで、事態は少しずつよい方向に向いていったのです。

将来もまた、自分だけではどうにもならない事態になったら
「私は豊かなる空洞である」
と自分に言い聞かせ、事態を見つめなおしていこうと考えています。

河野陽炎のコンサルティング


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