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「ヤヌスの鏡」など宮脇明子先生の作品を読むと「登場人物のその後の人生」を考えてしまう

小学生か中学生のころ、たまたまテレビをつけると、「ヤヌスの鏡」(1985年制作)の最終回が再放送されていた。最終回は、出演者が小沢家に勢ぞろいして「おばあさま」を迎えるシーンや、おばあさまが亡くなるシーン、涼子とユミの対決シーンもあって、かなり濃厚な内容である。

しかし、それまでの放送を全く見ていない私にすれば、何がなんやら分からず「やたらインパクトの強いシーンばかりあるドラマ」という認識しかできなかった。

漫画文庫で「ヤヌスの鏡」と再会

私が大学生になったころ、少し古い時代の漫画が文庫版サイズで再販売されることが増えた。書店の漫画文庫の棚で「ヤヌスの鏡」に出会った私は、やたら濃厚なドラマの最終回を思い出し、3巻とも購入した。

多重人格(解離性同一性障害)について、まだ日本で知られる前に、「ヤヌスの鏡」では、これだけ深い描写ができているのがすばらしい。しかも、多重人格の研究が進んでいる現代においても、「ヤヌスの鏡」の内容があまり間違っていないという点も、優れている。

私は、精神医学や心理学の勉強にはまった時期があり、その流れでメンタルヘルスマネジメント検定も受験したのだが、勉強をする中で、たびたび「ヤヌスの鏡」のことは思い出した。

漫画文庫版の3巻に収録されていた、祖母・タカとタカの母親、さらに異母妹・水鏡(ミカ)のかかわりについて描かれた「原説」は、読んでよかったなぁと感じた。本編だけを読むと「タカはひどいおばあさんだ」としか思えないが、誰にでも「そうなってしまった理由」があるのだと、考えることができたからだ。

続編「メタモルフォセス」もおすすめ!

後に、続編「メタモルフォセス」も読んだ。こちらも、宮脇明子先生の作品の特徴である「真相はどうなんだか、わからない感じ」が読後に残るよい作品だと思う。

「メタモルフォセス」を読む前に、私は「運命の恋人」「今宵おまえののど笛を」「金と銀のカノン」「ひみつのルミちゃん」「橫花一朝の夢 - 昭和の天一坊と呼ばれた男」など、宮脇明子先生の漫画を何冊か読んでいる。

どの作品も「作品中に取り上げられるのは、登場人物の人生の一部であり、作品が終わっても彼らはどこかで生きているのだ」という感覚が残るものだった。たとえば「運命の恋人」は、監禁されていた少女が、いろいろな苦労を背負って成長し、その後は……という部分で終わっている。「金と銀のカノン」も、樋口真澄の策略などでピアノをやめた人たちが、その後はどうやって生きるのかということが、やはり心配になる。

「金と銀のカノン」での2人の対決

女性同士の対決を描く漫画は他にもあるけれど、樋口真澄と弾正容子の戦いは「2人だけでなく、関わった誰一人として、幸せになれそうにない」という悲惨なものである。

近い舞台設定のものとしては、佐伯かよの先生の「星恋華」や一条ゆかり先生の「プライド」などがある。いずれも「芸術、歌などに対して誠実であった人は、何かの形で救われる」という様子が描かれているものだが。

ただ、初めて「金と銀のカノン」を読んだときは、なぜ真澄がそこまで焦って地位を確立しようとするのかが、理解できなかった。しかし一条ゆかり先生の「プライド」で、緑川萌が奮闘する様子に触れてようやく、真澄の焦りや必死さが理解できた気がした。このように、時間がたってから分かることもあるのだ。

地上波に帰ってきた「ヤヌスの鏡」

現在「ヤヌスの鏡」が地上波で放送されている。

私はネットドラマを見ていなかったので、地上波の放送と同じペースで見ている。原作のセリフや展開が、けっこう忠実に再現されている。前のドラマみたいに、おばあさまに叩かれながらヒロミが正座して「純潔です!」と叫ぶシーンなどはない。ウエディングドレスでオープンカーに乗るとか、暴走族と「かごめかごめ」とかもきっとないだろう(笑)。

舞台が現代に変わっているので、原作や前のドラマが制作された時期に比べて、多重人格の概念が世間にも広く知られていることになる。当然、ヒロミやその家族も多重人格というものを知っているだろう。そのことが、ドラマの演出にどう影響を与えているか、楽しみな気がする。

おばあさまと水鏡(ミカ)が和解できていて欲しい

「原説」で取り上げられた、おばさまと水鏡(ミカ)との関係。初めて読んだときは「おばあさまが、本編のような人間になった理由の説明」としか考えていなかった。

でも、私も年を取ったからか、今は「おばあさまの枕元に水鏡が現れたのは、和解のためであって欲しい」と思う。つらくあたられた水鏡や、水鏡への思いを諦めておばあさまと結婚した寛二も気の毒だけれど、自分の意思を持つことが許されず、両親に従うしか生きるすべがなかったおばあさまのことも、心から気の毒に思ってしまう。

3人がお互いを縛り合う関係から、解放されることを願いながら、地上波の「ヤヌスの鏡」を見よう。ヒロミ/ユミにも、ドラマが終わってからでもいいから、いつか解放の時が訪れて「あんな日々もあったね」と笑える日が来て欲しいと願う。


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