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行けなかった修学旅行が私にくれたもの

小学校6年生の夏休み、祖父母と弟と私は「お伊勢参り」を含めた旅行に出かけた。

鳥羽の観光ホテルについて荷物を下ろしたとき、弟が発熱していることに、祖父が気づいた。祖父がホテルのフロントに「体温計を貸してもらえませんか?」とお願いしたところ、快諾してくださった。
弟が熱を測っていると、客室係の方が氷枕を用意して持ってきてくださった。

さらに、フロントの方から電話で
「近くのお医者様までお連れできます。お車の用意をしておりますので、よかったらご利用ください」
と。お言葉に甘え、開業医の先生に見ていただいた弟は
「少し疲れただけで大したことはないようだけれど、今晩の花火大会はいかないで、部屋からゆっくり見てね」
とのお言葉をいただいた。優しい先生で、本当に安心できた。

私たちは花火大会があることを知らなかったので、「見れたらラッキーだね」と言いながら、交代で大浴場に向かった。
私と祖母が気持ちよく湯船につかっているとき、花火大会が始まった。お風呂に入りながら花火を見るという経験ができて、なんてラッキーなんだろうと思えたものだ。

ところで祖父母と私たち兄弟がお伊勢参りに向かったのは、実は私が修学旅行の時期にマイコプラズマ肺炎で入院して行けなかったので、祖父母が改めて連れて行ってくれた旅行だった。
翌朝、祖母と弟には休憩してもらって、祖父と私で簡単ながらお伊勢さんにお参りし、早めに帰阪することになった。タクシーの運転手さんが事情を酌んでくださり、お伊勢さんの話をいろいろ聞かせてくださったのも、ありがたいことだった。近鉄特急でどんどん変わる風景を見ながら移動するうち、弟も元気を取り戻していった。

修学旅行に友達と一緒に行けないのは残念なことだったとは思う。

でも、修学旅行のためにまとめた荷物を持って小児病棟に入院した私は、そこでいろいろな人と出会い、得難い経験をした。

慢性疾患でかなり長期間の入院をしていたり、入退院を繰り返していたりする、私とそう年齢がかわらない人や年下の人がこんなにいるんだと、実感した。長く入院している人たちは、ご本人もつらいだろうに、入院歴の浅い私を気遣ってくれた。
毎日、外出許可を取る形で学校に通ったり、自主的に勉強をしたりしているお姉さんもいた。

私の入院期間は短かったけれど、このときの経験があったために、大人になって入院や手術をすることになっても、落ち着いていられた。入院中であっても、自分でできることを見つけて、前向きに過ごしていたお姉さんたちのように、私も過ごせばいいのだと思えたのだ。

行けなかった修学旅行は、結果としていろいろなものを、私に残してくれた。
ただ「体温計を借してください」と言っただけで、「熱が出てきた、困った」と相談をしたわけではないのに、先回り先回りで手配してくださったホテルの方々。入院先で出会った患者さんたち。
修学旅行に行けなかったことで、本当にすばらしい出会いができた。

あれから30年たった今、私が願っていることは、祖父母と弟と一緒に泊まったあの観光ホテルにに、また泊まることだ。公式サイトを確認したところ、昔もあった大きなプールは今も存在しているようで、なんだか嬉しい。大浴場につかって、お伊勢さんにお参りして、赤福餅を買って帰りたいと、けっこう本気で思っている。

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